今日は何を観よう。良子ちゃんに前に勧められた『いつまでも』もまだ観てないしな。
でも良子ちゃんみたいに20代前半だったら面白いかもしれないけど、
私の年代だとなぁ…。あんな風な恋愛って出来ないから共感出来ないかもしれない。
ここはやっぱりシリアス系のやつが真剣に観るからそっちがいいかもしれない。
ん~、でもコメディ系もいいかも。どうしよう。
今日はいつもより800円も高くチケット代出して観るんだから慎重になるな。
私が半分睨む様に今日、上映されてる映画を映してる画面を見てると
聡子ちゃんが声をかけてきた。
「近藤さん、どうしたんですか?そんな怖い顔して見てて。しかも今日はレディースデイじゃないのに。」
「それ、さっき徳永君にも言われた。『レディースデイじゃないのに珍しい』って。」
「徳永君に会ったんですか?」
「うん、さっきね。今からシフトが入ってるみたいな事言ってたよ。徳永君って弟みたいで可愛いね。」
私はさりげなく言ったつもりだったけど、聡子ちゃんはため息をついた。
「どしたの?」
「近藤さん、本当に気がついてないんですか?」
「何が?」
そこまで言うと呆れた顔をして私を見る。何々?私変な事言った?
「ここだけの話にして下さいよ。」
そう言うとチケット売り場の隅っこに私を引っ張って連れて行くと耳元に小声で、
「徳永君、近藤さんが好きなんだと思いますよ。」
「え~!!」
思わず声が大きくなった。周りのお客さんの視線が私達に注がれる。
「近藤さん、声大きい。」
「ごめん、ごめん。だって徳永君って私より何歳年下?」
「確か…。5つ?」
「5歳も違ってたらお姉ちゃんだよ。それをシスコンの弟と間違えてるんじゃないの?」
「でも、徳永君わざわざシフトをレディースデイにしてるんですよ。
今日はたまたま会ったみたいですけど。」
それを聞くと私は黙ってしまった。言われてみれば徳永君って結構親切だよね。
接客業だからだと思ってたけど、違うのかなぁ。いやいや。聡子ちゃんの勘違いって事もあるし。
私は無理やり笑顔を作ると聡子ちゃんの肩をバンバン叩いて、
「聡子ちゃん、それは聡子ちゃんの勘違いよ。それはないって。」
聡子ちゃんはため息をつくと、
「近藤さんって恋愛映画もたくさん観てるのに現実の恋愛には疎いんですね。」
お客さんにそこまで言わなくてもいいと思う。まぁそれだけ気を許してくれてるって事だと思うけど。
「まぁ、徳永君の事は考えとく。でね、今日観る映画、迷ってるんだけど。」
「どれとですか?」
「前に良子ちゃんに勧められた『いつまでも』と、シリアス系の『棘のある花』と、
コメディ系の『あっちもこっちも』のうちの3つ。」
聡子ちゃんの返事は即答だった。
「今の近藤さんには恋愛系がいいと思います。映画で勉強して下さい。」
「…。はい。」
「じゃぁチケット確保しときますね。いつもの10列から12列目の真ん中ら辺でいいですか?」
「うん。今からチケット売り場に並ぶから。」
「待ってま~す。」
聡子ちゃんは手を振ってチケット売り場に戻っていった。
恋愛系映画で恋愛を学ぶねぇ。それに徳永君…。う~ん。聡子ちゃんの気のせいだと思うけど。
少なくとも徳永君の事、恋愛の対象とは見れないな。もし聡子ちゃんの言う通り
私に好意を持ってくれてるとしたら悪いけど。
…。だからって私、誰が好きなの?こないだやった合コンの三村さん?
三村さんは一回しか会ってないしな。だったら聡?聡もなぁ。一番気心が知れてるのは確かだけど。
笹原さんは?ふっ…。悪いけど笑っちゃった。圏外、圏外。
今日は聡子ちゃんの言う通り『いつまでも』を観て恋愛を学びますか。
でもあの映画って高校生同士の恋愛なんだよねぇ。恋愛対象が違い過ぎるから勉強になるのかな。