The Movie 13話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

「The Movie」を最初から読まれる方はこちらから


翌日は二日酔いにもなる事なく、出社した。


段々と寒くなってきたのでもうそろそろコートを出しておいた方がいいかもしれない。


会社の入ってるビルの入り口で聡に声をかけられた。


「美加!」


私はおもわず近づいて、小声で


「だからその呼び方は辞めて。私達が付き合ってるって思われるでしょ。」


「俺としては付き合ってるつもりだけど。で?どうだった。昨日の合コン。」


「まぁまぁよ。」


三村さんの事まで聡に言う必要はないだろう。


「まぁまぁねぇ。まさかお持ち帰りされなかっただろうな。」


「されるわけないでしょ。こんなおばさん。」


「だってお前、まだ28じゃねぇか。」


これ以上話してたら本当にさっき私が思った様な事を思われちゃう。


無理して事務的な顔をすると、


「今日中に仕上げたい仕事があるので、お先に失礼してもいいでしょうか。尾山係長。」


あえて、『尾山係長』ってとこの口調を強くした。


聡は気を悪くしたような顔をしたけど、いちいち聡に付き合ってらんない。


私は自分のコーヒーを入れてデスクに座ると今日の仕事を始めた。


途中で笹原さんが何か言ってたけど私は仕事以外の事は無視してひたすらパソコンにデータを


打ち込んでいた。


「近藤さん、ちょっと。」


またかって思ったけど呼ばれた聡の席に歩み寄った。


「なんでしょうか。」


「近藤さん、確かフランス語喋れたよね。」


「多少なら。」


その途端周りがざわついた。


「すご~い。近藤さんって確か英語もTOEICで800点近くなんでしょ?」


「そのうえフランス語?」


「派遣の時給が高いのが分かる気がする。」


「今日の昼にフランスの食品会社の方と会食があるんだ。悪いけど通訳で同行してくれないか。」


(自分だってフランス語喋れるじゃない)


そう思ったけど、これは職務命令だ。うなずくしかない。


「分りました。何時からですか?」


「向こうの方が12時に指定してきたレストランにいらっしゃるから…。待たせるわけにもいかないし


11時半には出ようと思ってる。」


「はい。」


返事だけして私はデスクに戻った。


でも…。ここの会社でフランスの会社での取引あったっけ?


新規で開拓したのかもしれない。


もしかしたら午後まで会食が伸びるかもしれないから私は急いで午後の分の仕事もこなした。


これなら少し会食が午後になっても定時で帰れる。


それに会社以外での仕事には特別手当がつくからこの通訳の仕事で少しお給料も上がる。


11時20分になった時に私は外へ出かける格好をして聡の前に立った。


「係長、もうすぐで11時半です。もうそろそろ出た方がいいんじゃないでしょうか。」


「そうだね。交通状態がどうなってるかわからないし。」


私と聡は二人で会社の外に出て、聡がタクシーをひろいレストランに向かった。


レストランに着くとまだお昼前と言う事もあってお客さんは少なかった。


聡は私の意見も聞かないで勝手にメニューをウェイターに言っていた。


「ちょっと、会食なんでしょ?先に私達が食べてどうするのよ。」


「あぁ、あれ?嘘。」


「は?嘘?」


間抜けな声を出して私は確認してしまった。


「会社の中では付き合ってるのを隠せって言っただろ。


家まで押しかけるつもりはないから、せめてメシだけでもと思って。」


聡ってこんなに自由奔放だったっけ?そうだから黙って私に何も言わずイラクなんて行ったんだもんね。


「だからってこんな高級レストランじゃなくてもいいじゃない。」


「定食屋だったら社員に見つかるかもしれないだろ。ここだったらそれはない。」


聡は少しネクタイを緩めると、まるで作戦が成功した子供の様に笑った。