The Movie 12話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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合コンは男性3人、女性3人で行われた。


昔みたいに居酒屋じゃなくて今日はイタリアンの個室だった。


先に到着していたのは男性陣だった。こういう時、弥生が言うには待たせるのがいいらしい。


時間厳守な私はそれはどうなんだろうって思ったけど、毎週の様に合コンをしてる弥生の言う事だから


間違いないだろう。


「お待たせしました~。」


その声はどこから出てくるんだ、と思える程いつもと違う声で男性陣に遅れた事を謝りながら


弥生が先に部屋に入っていった。


女性陣の参加者は弥生と同じ派遣会社の成海と私だった。


男性陣はしっかりスーツを着てる。ちゃんとした企業の人なのかな?


それぞれの自己紹介が始まって男性陣はみんなパイロットか男性客室乗務員だという事がわかった。


当然年収は派遣の私達よりいいはずだ。


だけどよくこんな面子そろえられたな。


さりげなく男性がしてる時計を見ると高級時計ばっかりだった。


1人はパテックフィリップのバーゼルワールド新作だし…。確か300万円近くしたと思う。


あとの2人はヴァシュロン コンスタンタンなんてしてる。あれも…。200万近くしてた気が。


私のセイコーのレディスと比べたら…。


さりげなく弥生の隣に座り、


「どこでこの面子そろえたのよ。すごいお金持ちじゃない。」


「合コンで知り合った人の知り合いの知り合い。」


「随分、遠い知り合いね。」


これは嫌味で言ったつもりだけど弥生には通じなかったみたい。


若い子の合コンと違い王様ゲームも山手線ゲームもなく、お互いの仕事の事とか


もし本当に結婚したらどんな家庭を築きたいとかの話だった。


元々大勢で飲むのが好きじゃないからほとんど一人で飲んでいたら、一人の男性に声をかけられた。


「近藤さんはお酒が強いんですね。さっきからお一人で飲んでいらっしゃる。」


手酌でワインはマズかったかな。


「大人数で集まるのが苦手で…。何を話したらいいのかわからなくなっちゃうです。」


「近藤さんのお話をして下さればいいじゃないですか?派遣会社にお勤めとの事ですが、


今はどこに派遣されてるんですか?」


「顧客データをまとめて次の商品を開発するマーケティング部です。」


「それじゃぁ毎日データに追われて大変でしょう。」


やたらこの人私に話しかけてくるな。たいていの男の人って一人で、しかも手酌でお酒を飲んでる


女には関わらないのに。名前、なんていったけ?…。そうだ、三村 雄介さんって言ってたな。


「三村さんは確か客室乗務員をされてるんですよね。女性に囲まれてるお仕事だと思いますけど。」


「仕事では確かに女性に囲まれてますが、プライベートではほとんど接点がないんですよ。


実際は華やかな仕事に見えますが、肉体労働みたいなものですからね。」


私と三村さんが話しているといつの間にか残りの4人は4人で盛り上がってた。


「どうやら、あちらはあちらで盛り上がってるみたいですね。ここの近くに落ち着いてお酒が飲める


所があるんです。そちらに移動しませんか?」


それってお持ち帰りされてるって事?弥生の顔を見ると肩を動かして『Go』サインを出してる。


「じゃぁ…。そのお店、教えて頂けますか?」


弥生には会費をすでに渡してある。私と三村さんはさりげなくだけど、確実に「お先に」の合図をして


その店を出た。


三村さんが教えてくれた店は合コンをした店からそんなに離れておらず、ピアノが置いてあるBarだった。


中央には大きな花瓶にユリが飾ってある。あれは多分、カサブランカとソルボンヌだと思う。


「どうぞ。」


私は三村さんにカウンタースチールを引いてもらって席に着いた。


さすが客室乗務員。サービスが徹底してる。


「何を飲まれますか?」


「じゃぁ…。ウォッカをダブルストレートで。」


「本当にお酒が強いんですね。」


しまった。いつもの癖で自分が飲んでるお酒注文しちゃった。


まぁここまでさらけ出したらほとんどの男の人は引くだろう。私だって義理で合コンに参加しただけだし。


マスターからお酒をもらって形だけの乾杯をしたら、思いもしない事を言われた。


「突然、こういう事を言うのは失礼かもしれませんが、これからもこうやって会って頂けませんか?」


私は持っていたグラスを置いて、三村さんの顔を見た。


「本来でしたらこんな事初めてお会いした方に言う事じゃないと思うんですけど、


僕はなかなか女性と知り合いになるきっかけがないですからね。どうしても急いでしまうんです。


すみません。」


その顔は裏表のある笑顔じゃなくて本当に恥ずかしそうに笑ってる笑顔だった。


どうしようかと迷っていたら、三村さんって積極的なのかな?メアドと携帯番号が書かれている


名刺を渡された。


「気が向いたらご連絡下さい。待ってますから。」


その日はお互い1杯ずつだけ飲んで別れた。引き際もいいな。単に慣れてるだけかもしれないけど。


でもどうしよう、この名刺。私は渡された名刺をジッと見続けた。