The Movie 11話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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映画館での席は聡と離れた場所だった。


コメディ映画だけど聡はどんな気持ちでこの映画を観るのだろう。


隣に座られたら、きっと私は映画を途中で観るのを止めてしまったかもしれない。


それなのに、コメディ映画にも関わらず映画の内容は全く入ってなかった。


1年も離れていて、今さらやり直すなんて言うのは自分勝手だと思った。


あの時、どれだけ私が聡の事を探し、連絡が来るのを待ち続けていたことか。


気がつけば映画は終わってた。無料券、無駄になっちゃったな。


ぞろぞろとシアター室から出て行くお客さんがいる。


私は最後に帰ろうと、ほとんどのお客さんが帰るまで座っていた。


その時初めて、聡が私の3列上にいた事に気がついた。


聡は私の方を見ている。私はその視線から逃れる様に映画館から出た。



聡が会社に出社してくる日、私の足取りは重かった。


どんな顔をして会えばいいんだろう。


どんな言葉をかけたらいいんだろう。


色々と考えてしまった。


会社のミーティングの時、聡の挨拶があった。


「前にここに派遣社員で来ていた尾山 聡です。ご縁があってこの会社に入社しました。


まだまだ未熟な僕ですが、どうぞよろしくお願いします。」


聡の事を知らない新人の子達は、色めきだっていた。


「超イケメンじゃん。彼女とかいるのかなぁ。」


「あれだけの男だもん。いるに決まってるじゃない。」


「そう思って誰も近づかないのかもしれないよ。」


こないだ映画を観たとき、聡は別れたつもりはないって言ってた。


それは私の事を彼女って見てるのかもしれない。


でも今さら聡の事を彼氏と思うのは難しかった。


決して嫌いではないと思う。だけどそれが「好き」という感情なのかはわかならい。


そんな事を思いながら聡の顔を見ていた。


そう言えば今日、弥生が言ってた合コンの日だったな。


お酒でも飲んで気分を変えよう。


そう思いながら企画書を書き上げてた。その企画書を聡の元へ持っていく。


「あの…。これ。前の係長に頼まれてた企画書です。まとめておいたので目を通しておいて下さい。」


「わかりました。」


私がお願いした通り、聡と私が付き合ってた事を微塵も見せない態度で接してくれた。


それはそれでいいんだけど、少し寂しかった。


1時間後、聡が私のデスクにさっき渡した企画書を持ってきた。


「近藤さん。ここのページもうちょっと詳しくデータを入れてもらってもいいですか?」


その企画書にはメモが貼ってあり、


『今晩、空いてる?』


と書かれてあった。私はそのメモをすぐにシュレッダーにかけると、


「分りました。」


とだけ返事をした。そして言われた通りデータを付け加え聡に返す時に、


『今日は友人と約束があります』


とメモを挟んでおいた。


定時になって私が帰り支度をしていると聡に呼び止められた。


「近藤さん、ちょっといい?」


私は会議室に通され、聡と二人っきりで話す事になった。


「友人って男?女?」


なんだか機嫌が悪いみたい。


「両方。私の友達に誘われて食事をするの。」


「食事という名の合コンか。」


「いけない?」


「別に。でも俺はお前の事、彼女だと思ってるからな。それは忘れないでくれ。」


私は椅子に置いていたバックを手に取ると、


「約束の時間に間に合わなくなるから。」


なるべく聡の顔を見ない様にして会議室を出て行った。