せっかく徳永君やマスターに勧められた映画だけど、集中して観る事が出来なかった。
さっきの徳永君の態度…。もしかして私に気があるんじゃないかしら。
まさかねぇ。きっと映画のオフィシャルブックとかが見たいだけかもしれないし。
映画の後半になるとその事も考えなくなり、映画を楽しむ事が出来た。
公安の刑事と所轄の刑事の話だった。
本当に警察庁で撮影したのかと思う位セットもしっかりしてる。
公安の宮路刑事と所轄石川刑事がタックを組んで事件を解決していくストーリ-だった。
最初は公安の宮路刑事は石川刑事をバカにしてたけど、石川刑事の執念ともいえる
捜査で二人は息投合していく。宮路刑事の口癖が「所轄のくせして。」
それに対して、石川刑事は「公安も大した事ないですね。こんなに事件解決に時間をかかるなんて」
その度に二人は子供の喧嘩じゃないかってレベルの喧嘩を始めてしまうけど
段々と真相に近づいた時は観ている私でもびっくりした。
2時間ちょっとの映画だったけど十分楽しめた。
特に宮路刑事と石川刑事の子供みたいな喧嘩のシーンは笑ってしまった。
いつも通り、パンフレットを買いに行ったけどそこには私も知らない女の子が立っていた。
周りを見渡しても徳永君の姿が見えない。
まだ休憩かな？…。それはないな。きっと今日のバイトは終わったんだろう。
「すみません。『公安』のパンフレット下さい。」
「失礼ですがお名前を頂戴してもいいでしょうか」
何でパンフ買うのに名乗らなきゃきけないんだろう。
「近藤です。」
女の子は私の名前を確認するとすでに袋に入ってるパンフレットを渡した。
「徳永さんに言われてたんです。近藤さんがいらっしゃったらこれを渡しておいてって。」
そう言えばパンフをキープしてくれてるって言ってたな。
「ありがとう。」
私はそのパンフレットを持って映画館を出た。
本当だったら関根さんの店に寄りたいところだけど、映画が始まる前に寄ったから
お金がそんなにないんだよね。今日は辞めておこう。
うちに着いてからコーヒーを入れて、今日買ったパンフレットを見た。
元々好きな俳優さんが出演されたから特別面白かったのかもしれない。
DVDが出たら買おうかな。
食事の準備をしてたら派遣仲間の弥生から電話が入った。
「はいはい。どうしたの？」
「どうせ今日も映画に行ってたんでしょ？映画が終わる頃に電話したの。
劇場内は携帯禁止だから。
それでね、今日電話したのは合コンのお誘い。あと一人足りないのよ。」
「それっていつ？」
「今週の金曜。」
「いいよ。場所とかはメールに送って。」
「助かったぁ。じゃぁメールで場所と時間、送っとくね。」
しばらくすると弥生からメールが入った。
場所と時間、場所の載ってるメアドも書いてあった。
弥生には行く事を承諾したけど、本当は合コンとかあんまり好きじゃないんだよね。
なんでもそうだけど一人で行動したいタイプだと自分でも思ってるから
大人数で飲むって少し抵抗がある。
でも友達関係も大事にしないとね。それにお酒を飲みたい気分だったし。
やたらと付きまわる様になった笹原さんの事も気になったし、
自宅に来たいって言ってた徳永君の事も頭から離れないし。
どうゆうつもりなんだろう、あの二人。
そんな事考えてたら、またメールが入った。
誰だろう。登録してないメアドだ。
『来週の日曜日に映画の試写会があるんです。
マネージャーに聞いたら近藤さんはお得意様だから来てもいいそうです。
よかったらいらっしゃたらどうですか？
ちなみに映画はパロディだそうです
徳永 浩二』
徳永 浩二？あの映画館の徳永君かな。映画の試写会の事も書いてるし。
『いったいあなたは誰ですか？人のメアドをどうやって知ったんですか』
一応返信しておいた。
その5分も経たないうちに返信メールが来た。
『映画館の徳永です。すみません。マネジャーに頼んで近藤さんのメアドきいてしまいました。』
人のメアドとか携帯番号とか勝手に知られてるのは面白い話じゃない。
でも試写会かぁ。ちょっと興味あるな。
『マネージャーに頼み込んだのはわかるけど、お客さんのプライベートな情報を
得るのはマズいんじゃないの？その試写会には行きたいから連絡下さい』
まったく。人のメアドを聞くなんて。常識じゃ考えられない。
もしかしたら親切でやったのかもしれないけど。