お父さんは1時間後位に帰ってきた。
妙子さんが怒ってるの様にいたのにびっくりしてたみたいだけど、
「こんばんわ、岡田さん。今日はどうされたんですか?」
「悟さん、この際率直に言います。」
「何でしょう。」
お父さんは妙子さんの顔を見ないでスーツを脱いでた。
「さっき、裕子さんが自殺未遂をしたわ。あなたから離婚届を出された上に今、お付き合いされてる方が
妊娠してるかもしれないのでショックを受けたんでしょうね。」
「それと岡田さんとどういう関係があるんですか?」
その言葉に私はムッとした。
「あやうく琴音は母親を亡くす所だったのよ。あなたが誰と付き合うかなんて興味もないけど
妊娠までさせて、離婚届まで出されたら裕子さんがどれだけショックを受けるか分かってなかったの?」
お父さんは黙ってる。
「お父さん、お母さんが首を吊ろうとした時、私がどんなに怖かったかわからないの?」
「…。あの女とは切れるよ。それでいいんだろ。」
ぶっきらぼうに言うお父さんにますますイライラした。
「私が転校したのが気にいらなかったの?
お母さんがどれだけ家の事見ててくれてるのがわからなかったの?」
「だから!あの女とは切れるよ。それでいいんだろ。」
「妊娠したかもしれないって言うのは本当なの?」
妙子さんは腕を組みながらお父さんを睨んだ。
「してない。そう言えば離婚に応じると思ったんだ。」
「お父さんって最低ね。そこまでして離婚したかったの?
私の将来の事とか考えなかったの?
もしお母さんが死んじゃってたら、どれだけ私が悲しくなるなんて想像しなかったの?」
お父さんは私の方を向くと、
「だから!別れると言ってるだろう。」
「私、学費は出来るだけ自分で出す。どれだけバイトで稼げるかはわからないけど。」
それを聞い妙子さんは、
「琴音がそこまでする必要はないわ。他の女に走ったあなたのお父さんが悪いんだから。
学費を出すのは当たり前よ。分かってますね、悟さん。」
「分かってるよ。だけど、うちの問題なのになんであんたまでが口出すんだ。」
さっきまで『岡田さん』って妙子さんの事呼んでたのに『あんた』なんて言ってる。
本当、お父さんって自分勝手だな。
「裕子さんは私にとって大事な友人だからよ。そんな大事な友人を失いたくないから
ここまで言ってるの。それぐらいもお分かりにならないですか?」
お父さんは黙って2階の書斎に閉じこもっちゃった。
呆れた顔でその後ろ姿を見たあと、妙子さんはお母さんの肩に手を置いて、
「いい?もうあんな事しちゃダメよ。どうしても悟さんと一緒にいるのが嫌なら
うちに来てくれてもいいんだから。そして琴音の事も十分考えて行動しなさい。」
お母さんはうなずくだけだった。
お母さんも妙子さんみたいに強い女の人だったらいいのに…。
離婚届出されたり、相手の女の人が妊娠したなんてウソつかれただけで
死んじゃおうなんて思うなんて…。
「じゃぁ、私帰るから。琴音も裕子さんの事、しっかり支えるのよ。」
「分かってる。」
そう言って妙子さんは帰って行った。