「守、私妙子さんに電話するからお母さん見ててあげてくれる?」
「分かった。」
お母さんは守に付き添われてリビングに行った。私はお母さんに麦茶を出すと、
「今、妙子さんに来てもらうから。」
その言葉に返事はなかった。
私はバックから携帯を出して妙子さんに電話をした。
「もしもし?妙子さん?琴音だけど。」
「どうしたの?」
「嫌な予感がしたから急いで帰ったらお母さん…。お風呂場で首吊ろうとしてた。」
「それで?裕子さんの様子は?」
「寸前で守と一緒に止めて、今は守が見てる。今から来れない?」
「すぐ行く。裕子さんから目を離すんじゃないわよ。」
「うん。」
正也ん家からうちまでは歩いてでも15分。きっと妙子さんは車で来るから5分位で来るだろうな。
私はリビングに戻って、お母さんの手を取った。
「あのね、きつい事を言うかもしれないけどお母さんが死んじゃってもお父さんは痛くもかゆくもないと
思うよ。それこそ、今隠れて付き合ってる人とすぐにでも再婚しちゃうと思う。
私はそんな人をお母さんなんて呼びたくないし、何よりお母さんが死んじゃったら私が悲しい。
それは妙子さんも一緒だと思うよ。今、妙子さんが来てくれるから少し話をしてみたら?」
私が語り掛けてもお母さんは無言だった。
守と顔を合わせていると玄関が開く音がした。
妙子さんが来たんだ。
妙子さんはお母さんに近づくとおもいっきりビンタをした。
「死んでどうするの!琴音の事を考えたの?死んだら悟さんの思い通りになるだけでしょ。
子供を置いて死ぬ事を選ぶなんて母親として失格よ。」
「…。限界だったのよ。あの人が浮気をしてるのに目をつぶる事も、妊娠させてしまった事も。」
「まだ、本当に妊娠してるかはわからないわ。それに万が一妊娠していたとしても
それは悟さんの責任よ。悟さんに責任を取らせなさい。
今日は悟さん、何時頃帰ってくるの?」
お母さんはしばらく黙ってたけど、ポツリと呟いた。
「多分、今日は遅くならないと思う。」
「私は家族じゃないけど同席させてもらって悟さんの意見も聞くわ。」
「妙子さんにそこまで迷惑はかけられないから…。」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ。琴音は母親を亡くすとこだったのよ。守。」
「はい。」
「今日は助かったわ。ありがとう。でもこれから裕子さんと琴音と大事な話があるから
もう帰っていいわよ。」
「でも…。」
守は心配気な顔で私の顔を見た。
「私なら平気。前にもお父さんに言った事もあるから。今日はありがとう。
でも真吾達には内緒にしといてね。」
「当たり前だろ。でも本当に大丈夫か?」
私は苦笑するしかなかった。
「うちの問題だもの。私がなんとかしなきゃ。夜電話出来る様だったら電話する。」
「分かった。でも俺は琴音の家の事情を知ってしまったんだ。
相談にはいつでも乗るからいつでも電話しろよ。夜中でもいいから。」
「ありがとう。」
私は守を玄関まで送って、守に抱き付いた。
「本当、ありがとう。守がいなかったらどうなってたか分からないから。
でも、私頑張る。」
「頑張り過ぎるなよ。」
守は私の頭を撫でて帰って行った。