「それで?あの井上って奴どうなった?」
守が参考書を読みながら井上君の事を話題に出した。
「今日も駅までついて来た。あれじゃぁ私と井上君が付き合ってるって思われちゃう。」
「試しに付き合ってみたら?」
「『試し』って…。付き合うのってそんな簡単にしていいものなの?」
「あれだけ琴音に熱心なんだ。結構いい奴かもしれない。高校生活で彼氏が出来ないのも悲惨だぜ。」
正也は守と私の会話を黙って聞いてた。
動物園に行こうって誘ってくれたから井上君と『試し』に付き合うなんて事になったら
面白くないに決まってるよね。
「俺は遠藤さんをゲットできるまで粘るね。」
真吾はアイスコーヒーを飲みながら積極的な事を言ってる。
彼氏かぁ…。
そう言えば三浦さんって彼氏いるのかな?
「やっぱりさ、皆は彼女とか欲しいの?」
「そりゃ欲しいに決まってる。だから遠藤さんを標的にしてるんだろ。」
「守は?こないだ告られたんでしょ?」
「あの子は俺のタイプじゃない。」
「じゃぁ、どんな子がいいの?」
「そうだなぁ…。活発で明るい子がいいな。」
それって私にも当てはまるじゃん。でも守は私の事は女の子として見てないからなぁ。
…。正也は私の事どう思ってるんだろう。
ただ単に動物園に行きたいって訳でもなさそうだし。
正也はみんなが正也ん家に集まってもあんまり喋らない。
だから正也が何を考えてるのか私にはわからない。
学校でもあんまり喋ってなさそう。常に中国史の本持ってるし。
皆で彼氏、彼女の話をしていたら妙子さんが部屋に来た。
「琴音、煮物を多く作っちゃったから裕子さんに持って行って。」
タッパーに煮物が入ってるのを私に渡すと、
「あんた達も彼女とか欲しいのねぇ。」
笑いながら部屋を出て行った。
高校生になっても彼氏が欲しいとか、好きな人がいるとかない私は遅れてるのかなぁ。
私って日本史の方が面白いから、そんな事考えもしなかった。
例えば、伊達 政宗の家臣の片倉景綱とか好きだけど、真吾に言わせると、
「そんなマニアックな奴知らない」と言う。
政宗を子供の頃から見ていた人で政宗の為なら死んでも構わないって言う程
の忠誠心を持ってた人なんだけど。
でも豊臣 秀吉は好きじゃない。お金があれば何でもできるって思ってる人らしいから。
山田先生は片倉 景綱の事を知っていた私に感心してたけど、
先生は他の武将の事もたくさん知ってるんだろうな。
だから転校の事悩んじゃうんだよ。あれだけ歴史に詳しい先生ってなかなかいないと思う。
…。どうしよっかなぁ。転校。
井上君の事もあるし、このままじゃ本当に付き合ってるって思われちゃう。