「じゃっ、琴音も大した事ないみたいだし。今日は禁煙デーみたいだし。帰るか。」
真吾がさっさとバックを持って帰ろうとした。
「最近、お前最後まで付き合わねぇんだな。」
守が早くも帰ろうとしてる真吾の後ろ姿にそう言った。
「…。俺も色々あんだよ。じゃな。」
色々?って何よ。でも真吾には踏み込んじゃいけないとこが多いから聞かない事にした。
「リンゴ。ありがとね。」
「おばさんにすりおろしてもらえよ。」
真吾は1時間もしないで帰っちゃった。
「あいつ、バイトでも始めたのかな。」
「お前もそう思う?」
「え~。あんた達の学校、バイト禁止じゃん。」
「先生達の目をかいくぐってバイトする位、あいつなら出来るよ。
ほら、うちって私立じゃん。結構金かかってると思うんだよね。」
「俺達も親に気を使うって訳だよ、これでも。」
「まぁ…。それはわかるけど。」
そういう私も私立だから、お父さん達は何も言わないけどお金かかってると思う。
病院代だってこないだ清算するの見てたら、思ったより高かったし。
守とそんな話をしてたら、正也が私の本を読みながら、
「へぇ…。芹澤 鴨って本名じゃないんだ。」
と感心していた。意外と知られてないんだよね、それ。
「そうだよ。本名は下村 嗣司って言うの。芹澤って言うのは出身地で、
鴨って言うのは近所にあった鴨の宮神社から取ったんだって。」
「正也の中国史オタクも感心するけど、琴音の日本史オタクも半端ないな。」
「でも、それって本当かどうかまでは私は知らないけどね。」
「芹澤 鴨が本名じゃないって知ってるだけで十分だと思うけど。」
さっきは新撰組には興味がないとか言って読もうとしなかったのに熱心に読んでる。
ね~。だから日本史っておもしろいんだよ。
「琴音、この本貸して。」
「いいよ。でも前みたいにジュースこぼさないでね。」
1回、正也に江戸幕府の本を貸した時、ジュースをこぼしてべとべとにして却ってきたんだよ。
すっごく怒ったんだけど、自分の本じゃないからって平気な顔してた。
「そうだ。琴音。うちの学校、早くも模試があるんだよ。
テストの範囲は教えてくれたけど、日本史でどうしてもわかんないとこがあってさ。
お前の担任って日本史だろ?聞いといてよ。」
守がバックの中から日本史の教科書を出して、私に見せた。
「自分の学校の先生に聞けばいいじゃない。」
「自分で調べろって言って教えてくんねぇんだよ。」
「じゃ、自分で調べたら?きっと図書館とかに資料があると思うよ。」
「すでにその本に関しては争奪戦だよ。今日、図書館に行ったら貸し出し中になってた。」
テストの範囲を見たら、伊達 政宗の時代の事だった。
これは私も好きな時代だけど、得意ではない。山田先生なら知ってるかも。
「分かった。先生に聞いてみる。教科書貸して。」
私は教科書を借りて、自分用の歴史専門のノートに範囲とか試験に出そうな事を書き写した。
「これで貸し1つね。」
「分かってるって。」
高校受験の時も正也と真吾は日本史の事は私に聞いてきてた。
それは高校生になっても変わらないみたい。