酒を飲むなら、何かつまみを作らないといけなかった。
江崎は酒を飲むとき、麻子がつまみを出さないと食事を食べようとしなかった。
「でもさ、結婚決まりそうで良かったな。」
「中島さんがいてくれたから…。」
「俺は何にもしてねぇよ。江崎が重い腰をようやく上げただけだ。」
「隆弘さんに中島さんみたいな友達がいてくれて本当に良かった。」
「だからあいつはと腐れ縁なだけだよ。それより北海道、行くの明後日だって?」
「えぇ、納品も終わって明日だったら隆弘さんも疲れてるから。」
「いつもなんだけどさ、今回の仕事は江崎随分と早くこなしていたな。
小林と北海道に行きたかったからだろうな。」
「そんな訳じゃないと思いますけど。」
そこまで話していたら寝室から江崎が出てきた。
「お前、また来たのかよ。」
「いいじゃねぇか。納品も終わったし、軽い打ち上げだよ。」
「勝手に始めてろ。俺、風呂入ってくる。」
江崎の自宅風呂には今は二組のシャンプーとコンディショナーがあった。
麻子が江崎の元へ引っ越してきて女性用の物が増えた。
初めて自宅に来た時な何もない部屋だった。
それが、観葉植物、食器、料理器具、そしてこのシャンプーなど。
本来だったら女性に自分の領域に物を置いて欲しくなかったが
麻子の物が一つ、一つ増えていくのは江崎にとって嫌な事ではなかった。
風呂につかり、麻子がいつも髪を束ねる為に使っているであろう赤いゴムをくるくる回しながら
北海道の姉は麻子を歓迎してくれるか考えた。
父親があんな男だから、姉は江崎には甘かった。
きっと喜んでくれると思いながらそれを置いて風呂からあがった。
人のうちで勝手に飲んでる中島は、
「小林って飯作るのうまいな。」
なんて呑気な事を言っている。
「お前も飲むだろ。」
江崎の為に水割りを作って江崎に渡した。
「お前、よくそんなに飲めるな。」
「酒は人類の共だ。」
訳のわかない言い訳をしてドンドン飲んで行った。
「おい、今日は朝までなんて飲まないぞ。」
「了解しております。だって明後日から北海道なんだろ?
荷物の整理はしたのか?」
「いや。まだだ。」
「こういう早めに準備しといた方がいいぜ。
直前になってあれがない、これがないって言いかねなっからな。
まぁどうせ小林にしてもらうんどうけど。」
「麻子がいないと何にも出来ないみたいな事言うな。」
その表情は少し少年の様だった。
何年ぶりだろう…。実家に帰るなんて。