二人で一人 43話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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「本当は小林と結婚したいんだろ?なんで俺の前ではあんなに正直なのに


小林の前だとお前らしく出来ないんだよ。」


「…。」


「結局、お前は小林に甘えてるだけだ。」


「そうかもしれないな…。」


「前に話しただろ。正面からぶつかれって。だからあの指輪も渡したんだろ?」


そうだ。中島に背を押されてあの指輪を渡したんだった。


今まで女性にプレゼントなんてした事なかった。


でも今回は麻子に身につけて欲しくて買ったんだじゃなかったのか?


そこへ外出用の服に着替えた麻子が寝室から出てきた。


手にはバックがある。


麻子は黙って空いてしまった皿を下げるとキッチンで洗った。


その姿を男性の二人は見ているしかなかった。


洗い物をすると、


「私…。しばらく実家に帰ります。」


江崎の顔を見ない様に玄関に向かった。


それを止めたのは中島だった。


「喧嘩の一つや二つでいちいち実家に帰ってたらキリがないぞ。


お互い、頭冷やせって。」


無理やり麻子の持っていたバックを奪い取ると、江崎の元に来る様にうながした。


江崎は黙って焼酎を飲んでいる。


麻子の目にはテーブルに先日もらった指輪のケースと違うケースがあるのが目に留まった。


ソファに二人は座り飲んでいたが、麻子はテーブルに腰を下ろした。


中島はここは自分がなんとかしないと、この二人はダメになってしまう気がして


頭の中をフル回転した。だが女性との付き合いが少ない中島にとって


この状況をどうやって回避したらいいのか分からなかった。


三人の間に重苦しい空気が流れる。


「麻子。」


最初に口を開いたのは江崎だった。その呼びかけに麻子はビクリとする。


「行かないでくれ。俺のそばにいてくれ。頼む…。」


それは初めて麻子に見せる、弱気な江崎の姿だった。


麻子は江崎と中島、そしてテーブルにあるケースを何度も見た。


混乱している様な表情だった。


「小林、お前もこっち来て飲めよ。酒の力っていうのもたまには必要だぞ。」


いつもだったら江崎の隣にぴったり座っているのだが、麻子は今回は


江崎と中島の間に座った。


中島が麻子の為に焼酎のレモン割りを作って、麻子の手に持たせた。


「ほら、飲めってば。」


じっとそのグラスを見ていたが、麻子は一気にそのグラスを飲み干した。


P&Tカンパニーに入ってから麻子はかなり酒に強くなっていた。


男性陣と一緒に飲むのだ。女性同士で飲む量とは全く違ってくる。


「…。行くよ。」


「えっ?」


中島と麻子が一緒に聞き返してしまった。それ程小さい声だった。


「麻子の実家に行って結婚の挨拶をしに行くよ。」


今度は明瞭な声だった。


中島は思わず指を鳴らしてしまった。


「そっか。うん。そっか。」


親友の結婚への一歩に中島は心から嬉しそうだった。