中島が嬉しそうにうなずいて麻子を見ると、麻子は泣いていた。
「ごめんなさい。急に親に会って欲しいなんて言って。」
「いや…。いつかは行こうって思ってたんだ。麻子が泣く事じゃない。」
「そうだよ。こいつが突然冷たい事言ったのが悪いんだから。」
男性二人に励まされても、麻子はしばらく泣いていたが、一通り泣くとようやく笑顔を見せた。
涙に濡れた笑顔だったが。
「その前に姉貴に会ってくれないか?」
「江崎のねぇちゃん?」
「あぁ。姉貴は苦労をし続けてきてる。俺が結婚するって聞いたらきっと喜んでくれると思うんだ。」
「江崎の実家って確か…。」
「北海道だ。」
「北海道…。」
麻子は江崎の実家が北海道にあるなんて初めて知った。
もしかしたら、三か月付き合っていても、自分の知らない江崎がまだまだある様な気がしてきた。
「今やってる仕事に蹴りがついたら行こうと思うんだけど…。」
江崎はテーブルにあった箱を手にすると指輪を取り出し、麻子の左手をつかんだ。
そしてゆっくりと薬指にはめた。
しばらく指輪を見ていた麻子だったが、天に掲げる様にして、
「綺麗…。」
それだけ呟いた。
「小林。」
「はい。」
「似合ってるよ。なぁ江崎。」
チラリとそのさっき麻子に差し出した指輪を見ると、
「あぁ。」
と、だけ答えた。
何故自分は他の女性には冷たくあしらうのに、麻子に対しては何をしたらいいのかわからないのが
自分でも不思議だった。
心から愛しているのに…。
「さっ。軽く婚約も決まった事だし、飲み直すか。」
「『軽く』って…。まだ飲むのかよ。」
「いいじゃないか。」
「そのうち身体壊すぞ。」
「それはお前も言える事。」
二人のやり取りを聞いていて、さっきまで泥沼にはまって動けなかった自分の心が軽くなった気がした。
「じゃぁ、おつまみまだいりますね。」
麻子は先程もらった指輪を丁寧にケースにしまうと、キッチンに立った。
「麻子、何で指輪外したんだ?」
「キッチンで流しちゃったらイヤだもの。」
その表情は明るかった。
その二人のやり取りを見て中島は、危機を一つ乗り越えたと思った。
自分の力ではなく二人の力で。