その晩、麻子が作ったのは本当にシンプルなものばかりだった。
豆腐サラダ、ヴィシソワーズ、ゆで豚、デザートにシャーベット。
いつもの量と比べたら少なすぎる量だったが、二日酔いの江崎にはちょうどいい品数だった。
「量、これだけで足りる?」
心配気に聞いてきた麻子に江崎は無言で左手の親指だけを立てて、「Good」と表現した。
「よかった。」
そう言うと麻子も江崎の正面に座り食事を始めた。
「そう言えば隆弘さんって前は外食ばっかりだったんでしょ?」
「あぁ。」
「最近はほとんど毎晩うちで食べるのね。」
「麻子の飯の方が外で食うよりいいからな。たまに外で食うのは接待位だ。
あれほど疲れる食事はない。」
麻子も一度だけ接待と言うものに行った事があったが、相手の事ばかり考えて
自分の食事らしい食事は出来なかった。食事事態は出来たのだが味合うまでは至らなかった。
苦笑いしながら、
「確かに楽しい食事会ではないわね。」
「なぁ、また中島をうちに寄らせてもいいか?」
「構わないわよ。だってここはあなたの家なんだもの。」
「そこ。そこなんだよ。麻子のマンション解約して本格的にうちにこないか?
今月自宅に戻ったのなんて何回だよ。家賃がもったいない。」
「…。そうね。」
江崎は一瞬暗い表情をした麻子を見逃さなかった。
だが追及もせず、
「まぁ、考えとけよ。」
それだけ答えた。
いつもだったらダブルベッドに二人で寝ているのだが、その間は少し離れていた。
今日は珍しく、麻子の方から江崎の背中にぴったりとくっついてきて
「ねぇ…。」
「ん?」
「本当に私でいいの?」
と、尋ねてきた。
江崎は身体を反転させ真正面から麻子を見た。そして麻子の顔を両手で包み、
「何言ってんだ、今頃。」
「だって…。」
「…。」
「隆弘さんって前は色んな女性と付き合ってたでしょ?その中には私より綺麗で頭もいい
隆弘さんにふさわしい人がいる気がして…。」
「麻子が心配する事じゃない。大丈夫だ。」
そう言って麻子を仰向けにさせると、首元に口づけをした。
麻子は抵抗もせず、ただされるがままになっていた。