二人で一人 29話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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その晩、麻子が作ったのは本当にシンプルなものばかりだった。


豆腐サラダ、ヴィシソワーズ、ゆで豚、デザートにシャーベット。


いつもの量と比べたら少なすぎる量だったが、二日酔いの江崎にはちょうどいい品数だった。


「量、これだけで足りる?」


心配気に聞いてきた麻子に江崎は無言で左手の親指だけを立てて、「Good」と表現した。


「よかった。」


そう言うと麻子も江崎の正面に座り食事を始めた。


「そう言えば隆弘さんって前は外食ばっかりだったんでしょ?」


「あぁ。」


「最近はほとんど毎晩うちで食べるのね。」


「麻子の飯の方が外で食うよりいいからな。たまに外で食うのは接待位だ。


あれほど疲れる食事はない。」


麻子も一度だけ接待と言うものに行った事があったが、相手の事ばかり考えて


自分の食事らしい食事は出来なかった。食事事態は出来たのだが味合うまでは至らなかった。


苦笑いしながら、


「確かに楽しい食事会ではないわね。」


「なぁ、また中島をうちに寄らせてもいいか?」


「構わないわよ。だってここはあなたの家なんだもの。」


「そこ。そこなんだよ。麻子のマンション解約して本格的にうちにこないか?


今月自宅に戻ったのなんて何回だよ。家賃がもったいない。」


「…。そうね。」


江崎は一瞬暗い表情をした麻子を見逃さなかった。


だが追及もせず、


「まぁ、考えとけよ。」


それだけ答えた。



いつもだったらダブルベッドに二人で寝ているのだが、その間は少し離れていた。


今日は珍しく、麻子の方から江崎の背中にぴったりとくっついてきて


「ねぇ…。」


「ん?」


「本当に私でいいの?」


と、尋ねてきた。


江崎は身体を反転させ真正面から麻子を見た。そして麻子の顔を両手で包み、


「何言ってんだ、今頃。」


「だって…。」


「…。」


「隆弘さんって前は色んな女性と付き合ってたでしょ?その中には私より綺麗で頭もいい


隆弘さんにふさわしい人がいる気がして…。」


「麻子が心配する事じゃない。大丈夫だ。」


そう言って麻子を仰向けにさせると、首元に口づけをした。


麻子は抵抗もせず、ただされるがままになっていた。