「ここにいても頭が痛い事には変わりねぇから、買い物でも行くか?」
「…。そうね。冷蔵庫の中も少なくなってきたし。」
麻子は普段着に着替え、自宅から持ってきたマイバックを手に玄関で江崎が来るのを待っていた。
1~2分して江崎も着替え、
「悪い。遅くなって。」
「ううん。」
江崎は麻子の手からマイバックを受け取ると、玄関から出、鍵がされているのを確認してから、
「じゃぁ行こうか。」
と、麻子をうながした。
近所のスーパーに着いた時、
「今日は何が食べたい?」
質問形式で今日の献立を考えてた。
「今朝まで飲んでたからなぁ。軽めのでいいよ。」
「分かった。」
買い物かごを持つのも江崎の役割となっており、知らない人がみたら若い夫婦に見えたかもしれない。
麻子は豆腐やレタス、納豆など肉類は一切買わず、野菜を中心に買い物かごに入れて行った。
「今日の飯って何?」
「軽めの物がいいんでしょ?だから出来るまで秘密。」
「まぁいいけどさ。今聞いた所で食える訳じゃないし。」
そんな二人を偶然見かけたのが麻子と同い年の菱沼だった。
菱沼の隣にも同年代の女性が立っている。
「あれ?あの二人…。」
「どうしたの?」
「男の方が俺の会社の先輩なんだけど、女の方は俺とは同い年だけど入社したのは
俺が先だから…。まぁ同期の人間みたいな人。」
「へぇ。ご夫婦かと思っちゃった。」
「そりゃそうだろうな。付き合ってるって噂あったから。
ふ~ん。でも本当だったんだ。付き合ってるの。」
「社内恋愛かぁ。憧れるな。」
「俺達だって大学からの付き合いじゃん。」
「でも職場は違うでしょ?仕事場でも会えて、帰っても会えるって素敵じゃない?」
「そういうもんかなぁ。」
そんな会話をしていたら、すでに江崎達は清算を済ませており、
麻子がマイバックに買い物した物を入れていった。
何か雑談をしながら歩いてスーパーから出ていくをの見送ると、
「江崎さんがマイバックとか持ってやるなんてなぁ。珍しい。」
「そんなに厳しい人なの?」
「前まではね。でも最近は…。少しは丸くなったかな。
小林の影響かもしれない。」
「小林さんって言うのね。あの女性。綺麗な人じゃない。」
「まぁね。うちの会社で唯一の女性社員だから。」
「会社に女性が一人だけ?余計すごくない?その男性達からあの二人が付き合ってるなんて。」
「社長命令で、小林には誰も手ぇ出すなって言われたんだけどな。
上の人達も黙認してるみたいだし。」
「ふ~ん。」
菱沼の彼女と思われる女性はそれ以上聞いてこなかったので、
二人はそのまま買い物を続けた。
江崎達は気づきもしなかった。菱沼に二人でいるところを見られたなんて。