シャワーから出てきた麻子は当然、すっぴんだった。
化粧をしてない分幼く見える。
江崎より4つ年下だから余計そう見えるのかもしれない。
「シャワーありがとうございました。」
シャワーのお湯で少し顔が赤らんでいるが、それは熱から出ているものではないらしい。
「具合はどうだ?」
「汗を流したから昨日よりマシになりました。」
「それと、渡部さんには今日も休みにしてもらったから。」
「もう大丈夫です。」
「まだ納期前だから、今日までゆっくりしてろ。」
「でも…。いつまでも江崎さんにお世話になる訳にはいきません。」
「お前を診察した医者からは、しばらく様子を見てろって言われてんだ。
体調が良くなるまでうちにいろ。」
「…。はい。あの…。さっきの事なんですけど…。」
「『さっき』って?」
「あの…。えっと…。江崎さんと…。」
「俺と寝たことか。」
「はい。」
「なかった事にしよう。」
「…。」
「俺とお前には何もなかった。ただそれだけだ。」
麻子は自分も江崎の遊びの女の一人に過ぎなかったと思うと胸が締め付けられる様だった。
「そうやって次々と女性とお付き合いされているんですね。」
「お前には関係のない事だ。」
麻子を抱いた事で、麻子への気持ちを自覚していたが、今さら素直になれなかった。
「私…。帰ります。」
「そうか。家、どこなんだ?」
「百人町です。」
「…。待ってろ。」
「えっ?」
江崎はどこかに電話をすると、
「今タクシー呼んだから、それで帰れ。ホームでまた倒れられたら困る。」
「いいです。電車で帰ります。」
麻子は身支度をすると一度江崎を振り向き、何か言いかけたが、黙って江崎の自宅を出て行った。
江崎は先程頼んだタクシーをキャンセルしてもらいシャワーを浴びた。
ふと、シャンプーなどが並んでいるところに赤い輪のゴムがあった。
おそらく麻子がシャワーをした時に使った物だろう。
それをつまみ上げると、指の中でクルクルと回した。
これから会社で麻子と顔を合わせても、自分は平気だろうか。
それは麻子の態度を見てみないとわからない事だった。