麻子は自宅に電車で帰ると、ベットに横になり大きくため息をした。
江崎はあんな風に色々な女性と関係を持って、平気なんだろうか。
次に江崎に会う時、どんな顔をすればいいのか分からなかった。
しかも江崎は麻子の教育係りだ。
話さない訳にはいかない。
「どうしよう…。」
それしか思いつかなかった。
江崎は麻子が帰った後、少し後悔をした。
何故素直に自分の気持ちを麻子に告げられないのだろうか。
しかも、今回は関係を持ってしまっただけに余計その事を感じられた。
麻子の携帯番号を見ながら、もう一度電話をしてここに帰ってくる様に言ってみようか…。
そんな事も考えた。
リビングを30周近くウロウロしながら考えると、携帯を手に取り麻子に電話をかけた。
しばらく呼び出し音が鳴るが麻子は出ない。
諦めて切ろうとした時に、小さな声で
「もしもし。」
と、ようやく返事が来た。
「あ…。俺だけど。」
「なんでしょうか。」
「熱…。熱下がったか?」
「…。はい。」
そこからもう一度江崎の自宅に戻ってきて欲しいと、どうやって伝えたらいいのか分からなかった。
テーブルの上には綾瀬が置いていった薬の袋があった。
「お前、薬忘れてきただろ。取りに来いよ。」
「会社に持ってきて下さったら、それで結構です。」
麻子は少しふてくされてる様だった。
江崎は携帯を握りしめ、深呼吸をすると、
「お前に話があるんだ。今から戻ってきてくれないか。その…。一週間分位の服も持って。」
「電話でお話すればいいじゃないですか。」
「ちゃんとお前の顔を見て話がしたいんだ。」
江崎がここまで女性を懸命に自分の元へ戻ってきて欲しいというなんて、珍しい事だった。
中島がこの電話をしている江崎を見たらどう思うだろうか。
きっとニヤニヤ笑いながら、からかうに決まってる。
だが、ここでチャンスを逃したらきっと麻子は遊びで抱かれたと思うだろう。
それだけは違う事を伝えたかった。