麻子はまさか昼からこんな事になるとは思わなかった。
何の歯車が狂ってこんな事になってしまったのだろう…。
だが江崎は気にもしない様に隣で煙草を吸っている。
胸元をシーツで隠しながら、
「あの、シャワーお借りしてもいいですか?」
と、尋ねた。
「あぁ。」
江崎は二本目の煙草に火をつけながら答えた。
「じゃぁ…。お借りします。」
シャワーの流れる音がし始めると江崎は煙草をもみ消し、うつ伏せになった。
「何やってんだよ…。俺。」
麻子の前では平静を装っていたが、いざ一人になると自分の手の早さに呆れてしまった。
麻子にだけは手を出さないつもりだったのに。
この事は絶対に会社の連中にはバレたらマズい。
それだけはわかっていた。
実際に今日、半休にしてくれと言った時には全くそんなつもりはなかった。
それがどうして…。
二人してどうしてこんな関係になってしまったのか分からず、
麻子も江崎も自分の中で混乱していた。
だが江崎が知らない事が一つだけあった。
それはすでに会社の中で江崎は麻子に気があると皆が思ってた事だ。
江崎自身が大勢の女性と付き合い過ぎて、自分の気持ちに気づかないふりをしていただけかもしれない。
会社では江崎と麻子の話題だけだった。
「どう思う?」
「江崎とあっちゃんだろ?」
「あれは近いうちにくっつくと思うね。」
「だってあれだろ?自宅に連れてったんだろ?」
「江崎クラスの男だったら、もう手ぇ出してるはずがまだなんだもんな。これはいいきっかけだよ。」
中島はプログラムを組みながら皆の会話だけを聞いてはいたが参加はしなかった。
江崎との付き合いが一番長いのは中島だった。
専門学校時代から頭の切れる奴だと思って付き合っていた二人だった。
その分、江崎の女性への態度は誰よりも知っていた。
学生時代から女性関係は派手な男だったが、本人が気が付かないうちに気にしてる女性がいても
その女性だけにはなかなか手を出さなかった。
意外と振られるパターンが多い事を中島は知っていた。
(今回はどうなる事か…)
それだけを考えていたが、中島の心配のし過ぎの様な気がしてきた。