送別会では彰君が飲めないのにドンドン飲まされてた。
カクテル一杯だけでも顔が真っ赤になっちゃうのに。
大丈夫かなぁ。
「お前に辞められたら、個室の顧客が減りそう。」
「柳沢はうちではトップレベルのウェイターだったからなぁ。」
「新人教育もうまかったし。まぁそれで大久保さんと付き合ってるんだけどね。」
私は真っ赤になってうつむいてしまった。
橋本さんはさっきから黙ってる。
チラリと彼女の方を見たけれど、なんだかにらまれてるみたい…。
そりゃそうよね。
自分が好きな人にすでに私という彼女がいるんだもん。
おもしろくないに決まってる。
こういう大人しい子に限って怖いんだよね。
そんな事を考えてたら木本さんが皆を驚かせる事を発表した。
「僕、木本 正樹と堺 順子はこの度結婚する事になりました~。」
皆が一斉に、
「えぇ~!!」
と声を上げてしまった。
だってホテルで働いてる時、全然付き合ってる感じがしなかったもん。
堺さんは、木本さんの袖を握って、
「何も今言う事じゃないでしょ。今日は柳沢君の送別会なんだから。」
「だって、メンバーがほぼ全員集まる機会なんてないだろ。」
木本さんは堺さんを立ち上がらせると、堺さんの左手を持って私達に見せた。
「じゃ~ん。婚約指輪です。」
確かに堺さんの左手にはダイヤの指輪がしてあった。
堺さんは木本さんの手を振りほどくと、
「だからだったのね。今日指輪して来いって言ったのは。」
「そうそう。」
木本さんは嬉しそうだったけど、堺さんはムッとした顔をしていた。
本当にこの二人が結婚しても大丈夫なのかなぁ…。
そう言えば私も彰君に、
『結婚資金にもなるから』
って、言われたんだっけ。