Tomorrow is another day 第2章 82話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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その頃、千夏は都内の簡易ホテルを借りて、毎日の様に中島のマンションを訪ねて来た。


今日のカーテンの隙間から外を見ると地面に座り込んで煙草を吸っていた。


千夏の前を通り過ぎる人々はチラリとしか見なかったが、気にしている様だった。


そっとカーテンを開けると今日も来ていた。


中島もいい加減うんざりしてきた。その時千夏の母親から携帯に電話が入った。


「もしもし。」


「あぁ、良かった。巧さんだけでもつかまって。こんな事聞くのも失礼だけど、


今千夏がどこにいるか知ってる?」


「毎日の様にうちのマンションに来てますよ。中には入れませんが。」


「やっぱり…。」


「どうかしたんですか?」


「勝が救急車で運ばれて今、入院してるのよ。」


「勝が?」


「1週間近く何も食べてなかったみたい。脱水症状と栄養不良ですって。」


「判りました。僕から話します。今もうちの前にいますから。」


「ごめんなさいね。千夏の方から離婚を申し出て、他の男性と付き合い始めたと


思ったらすぐ別れちゃうし。勝までこんな目にあわせて。」


「お義母さん、落ち着いて下さい。勝が運ばれた病院はどこですか?」


「佐々木総合病院よ。」


「判りました。僕の方から話します。」


「申し訳ないです。」


中島は電話を切ると、すぐにマンションのエントランスから出て千夏に声をかけた。


「ようやく、許可が出たって事かしら?ねぇ、私達ヨリを戻さない?」


「とにかく中に入ってくれ。」


「なによ、もったいづけるのね。まぁ、今日は家に入れてくれるのならそれでもいいわ。」


以前は一緒に暮らしていた部屋だけに懐かしそうに周りを見た。


「意外と綺麗にしてるじゃない。まだ小林さんに手伝ってもらってるの?」


「アイツも忙しいから、最近は自分でしてるよ。」


「ふ~ん。それで?私とヨリに戻ってくれるの?」


「それはありえない。」


「じゃぁ何よ?」


「お前、うちにしょっちゅう来てるけど、ちゃんと勝の事育ててるのか?」


「当たり前じゃない。母親だもの。あっ、煙草吸いたいから灰皿ちょうだい。」


中島は黙って灰皿を持ってくると、叩きつける様にテーブルに置いた。


いつもの中島の態度ではなかったので、千夏は驚いてしまった。


「なによ。せっかく部屋の中に入れてくれたからヨリを戻してくれるんじゃないの?」


そういいながらメンソールの細い煙草を吸い始めた。


黙ってそれを見ていたが、中島の目は完全に睨んでいる。


「お前、勝を引き取ってちゃんと育てるって言ったよな。」


「さっきも言ったわよね。母親ですもの、育ててるわ。」


自分にはインスタントだったがコーヒーを入れ、千夏には水だけを出した。


コーヒーを出すに価しない女だと思ったからだ。


「さっきお義母さんから電話があったよ。勝が救急車で運ばれて入院してるそうだ。


理由は2つ。脱水症状。もう一つは栄養失調だそうだ。それでよく『育ててる』なんて言えるな。」


そう言われると千夏の顔色が変わった。


「病院はどこ?今から帰るから。」


「佐々木総合病院だそうだ。でも行ったとしても会わせてもらえないと思うぞ。


育児放棄で警察に呼ばれるのがオチだな。」


千夏は立ち上がって、何も言わず出ていった。