引っ越した事は編集長には話さなくてはならなかった。
給与明細の事や緊急時に連絡先が違っていたら困るからだ。
「山下さんと一緒に住む事にしたの?」
「えぇ。家も近所でしたから、お互い行ったり来たりするのが面倒になって。」
本当は一人で眠ると毎朝の様に涙をこぼしながら起きるから、とは言えない。
「じゃぁ、麻子ちゃんは山下さんと結婚を考えてるの?」
「それはどうでしょう。やっぱり家族以外の人と一緒に暮らすと色んな面が見えて
きますから。まだ、考えてないです。」
本当は優人にプロポーズをされてる事も言えない。
「麻子ちゃんは本当に慎重派ね。だから婚期のがしたのよ。
私みたいになっちゃダメよ。」
「編集長だってまだお若いじゃないですか。」
「私には結婚は無理ね。自分で判ってるもの。結婚に向いてないって。」
「私も分かりませんよ。山下さんに幻滅されるかもしれないですし。」
「ラストチャンスと思って頑張りなさい。」
編集長に報告してからデスクにもどると真里が興味深々の表情でやってきた。
「あ~さこ先輩。とうとう山下さんと同棲ですか?」
「どっから引き出したのよ、その情報。」
「同期の人事部の子からです。」
「今度こそ大騒ぎしないでね。」
「わかってま~す。で、どこに引っ越したんですか?」
「秘密。」
「先輩のケチ。いいですよ。人事の子に聞きますから。」
(どうして最近の子ってプライベートに足を突っ込みたがるのかしら)
心の中でうなだれてしまった。