マンションに戻り、麻子が夕飯の支度をしていたら、
「麻子さん、ちょっといい?」
「なぁに?」
「ちょっとリビングに来て欲しいんだ。」
何だろうとエプロンを外しながら、リビングに向かう。
リビングのテーブルの上には、麻子が『観たくない』と言ってたDVDがあった。
「あ…。それ…。」
「ごめんね。ちょっと荒療治かと思ったけど、
麻子さんが他の映画探してる時に、こっそり借りたんだ。
この映画、麻子さんが忘れられない人と観たんでしょ?今度は僕と観ない?
そうしたらあの人との思い出の上に僕との思い出って言うか
僕と観たって感じにならないかなぁって思って。やっぱり観るの嫌?」
しばらく凝視していたけれど、麻子は何かを決意したかの様にうなずいた。
「大丈夫。きっと乗り越えられるよ。」
「そうね。いつまでも過去にこだわってたらダメだもの。」
「大丈夫。僕がいるから。きっと大丈夫。」
『大丈夫』の言葉を何回も繰り返して、麻子を励ました。