美奈は意を決した様に指定された喫茶店の前に立った。
が、浩之に会う勇気がなかった。
喫茶店の前でウロウロしていると、後ろから声をかけられた。
「なぁに今さら迷ってるんだよ。」
ぎょっとして後ろを振り向くと後ろには浩之が立っていた。
昔より少し痩せた感じがする。
だがライダースジャケットを羽織ってるのは変わらなかった。
美奈は懐かしさと怒りと両方の感情が湧いて来た。
それは不思議な感情だった。
今にでも胸に飛び込みたい感情と平手打ちしたい感情。
それは女としての感情と
母としての感情の両方だったのかもしれない。
浩之は美奈の有無も言わさず肩に手を置き喫茶店に入って行った。
これでは完全にカップルに見られてもしょうがない。
だが、何故か美奈はその手を振りほどく気にはなれなかった。
昔の様に肩を組んで歩いた思い出がよぎり、
浩之に身を任せてしまったのかもしれない。