その誓いも5年が過ぎ、夫にも嘘が判る事もなく、
『彼』か現れる事もなかった。
今が一番平穏な時かもしれない。
ここまできたら『彼』が現れる事もないだろう。
最初は義父は昔の男達と切れていないと
思っていたらしいが、
香が産まれてからはそんな事は言わなくなった。
やはり、孫は可愛いいし、
そんな孫を産んだ嫁を疑うのも辞めたらしい。
義母が持ってきた土産を早速、
みんなの分小皿に入れて持ってきた。
「美奈さん、ありがとうね。
こんな美味しそうなお菓子。
ここじゃなかなか手に入らないから嬉しいわ。
この辺は田舎だから…。」
「お義母さん達に気に入ってもらえたら
嬉しいです。
やっぱりこういうお菓子はみんなで
食べるのが楽しいですから。」
美奈の嫁ぶりも板についてきて、
すっかり小川家の嫁になっていた。
「ママ。私も食べていい?」
「その前にちゃんと手を洗うのよ。」
「うん。」
香は小走りで洗面所へ行き、
それを大人達は微笑ましく見守った。
義父は和菓子をほおばりながら
遠い目をして美奈に言った。
「美奈さん、どうだね。
香に兄弟を作ってやる気はないかね。」
突然の事に美奈は驚いたが
一人っ子で育つのもいいと考えていただけに、
言葉を選んで答えた。
「そうですね。こればっかりは私、
一人でどうこうできる事でもありませんし。
出来たらいいですね。」
最後に義父の言葉を肯定する事によって、
義父の反感を買わない様にした。