黙って話を聞いてた武内さんは腕を組み、
「って事はだぞ、俺が包丁を見せてその男とダブらせた訳だろ。
こりゃ、そうとうな精神的ダメージを受けてるな。
もしかしたらPTSDかもしれんぞ。」
「私も聞いた事あるわ。ストレス障害を受けるとなるんですってね。
これは深層心理に関わってくる事だからなかなか治らないらしわ。
…深刻ね。どうしましょう。」
「俺の事務所の主治医に診てもらいます。
結構ファンてありがたいけど、怖い存在でもあって
PTSDになる若い奴がいるんですよ。」
「早い方がいいぞ。遅くなればなるほど傷は深くなるからな。」
私が気を失っている間に色々な事が決められていってしまった。
いつ病院へ行くか。会社へは行かせるかとか。
目が覚めた時には光が肩を叩きながら、
「友梨香の奴、足がもつれて転ぶんだもんな~。
それで気を失ってやがんの。」
少しこわばった笑顔で笑った。
武内さんが何事もなかった様に料理を振舞ってくれた。
会社で疲れていたからとても助かった。
でも、いつ武内さんや紗由理が
帰って来たかの記憶がぱったりと消えていた。
それだけが不安だった。珍しく光は泊まっていくと言うし…。
皆、私の事を割れ物を触るみたいに扱った。なんだろう…。この不安感。
紗由理達は会社にも先回りして
私が高田君に襲われた事を言わない様に頼んでくれてた。
天下の大女優、佐々倉 紗由理が会社に来て頭を下げたら、
誰だって協力するだろう。