OLと女優 第2章 5 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

光は上杉さんを労わる様に、


「悪かったな。オフの日の夜中に。家族に何か言われなかったか?


車の運転もキツかっただろう。」


スーツを受け取りながら上杉さんの顔を見た。


上杉さんは銀縁の眼鏡を整えながら、


「私は江川さんのマネージャーですから…。気になさらないで下さい。


それより、お急ぎなんでしょう。


私に構わず早くスーツに着替えて下さい。」


私は芸能人とマネージャーとの間柄を感じてしまった。


あまり光に無関心だと思っていた上杉さんがここまでしたのに、


すこし意外に思ってしまった。光は母に向かって、


「すみません、お父さんのお部屋をお借りしてもいいでしょうか。


すぐ終わります。」


母は光を見ずに、


「どうぞご自由に。」


しばらくすると、スーツ姿の光がやってきた。


スーツ姿はコンサートで見たことがあるけど、あんな派手なスーツではなく、


なんと言うかリクルートスーツに近かった。そしてなんと、母の前で土下座し、


「お母さん、いえ、今はお母さんと呼ばせて下さい。


お母さん、友梨香さんと結婚させて下さい。」


眠気覚ましのコーヒーを飲んでいた私は手が止まってしまった。


唖然と2人を見ていると母は光を睨む様に見つめ、


「さっき私が言った事、覚えていらっしゃる?


友梨香は守れるの?と聞いて貴方は1人では無理だけど


2人で生きていくっておっしゃったわね。」


「はい。」


2人で1人なのね…。貴方達は。」


母は寂しげに私を見た。


私は自然と頭が下がった。そして自然と涙も出てきた…。