卒業  37話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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秋のポスター撮影は山崎の強い希望で福島も同席する事となった


山崎の首元に深く付いた傷はストールで隠す事にした


撮影前、山崎は福島に照れた様に手を振り撮影に挑んだ


福島も手を振り返しスタジオの隅に立って撮影風景を眺めていた


もみじの葉を上から散りばめて、山崎はくるくると回った


福島はその光景を見ながら


「綺麗だなぁ…」と


つぶやいた


山崎は撮影の途中でも、福島に時々手を振り、福島も手を振り返した


福島に手を振り返してもらえるだけで、山崎は安心する様だった


「はい、一旦休憩で~す」


と、声がかかると、山崎は福島の元に駆け寄って


「どうだった?おかしくなかった?」


「綺麗だったよ。僕の彼女とは思えない位だったよ」


「も~。福島先輩は私の彼氏なんです」


「光栄です」


「先輩、からかわないで下さい」


そんな会話をしていた2人にカメラマンが


「あすかちゃん、撮影始めるよ」


「は~い」


すぐ、カメラマンに返事をしたが、すぐに福島に振り返って


「待っててね。今日、帰るんですよね。送りますから


撮影もすぐ終わりますし」


「うん。でも、こんな撮影風景を見れるなんて贅沢だね


最後まで見てるよ」


「じゃぁ、行ってきます」


駆け足で撮影現場に戻って行った


福島はその姿を見ながら


(ホント、僕の彼女なんて贅沢だよ…)


山崎の後ろ姿を見送った




撮影後、福島と山崎は駅のホームにいた


福島が大学のある県外に帰る為だ


2人は強く手を握りあっていた


「メール、毎日するね」


「うん。先輩も体に気を付けて」


「あすかも。もう2度とあんな事しちゃダメだよ」


「…はい」


「本当にしないでくれよ。今度はすぐ駆けつけてあげられないんだから


頼むから僕の命まで縮めないでくれ」


「そうですよね」


福島は人目もはばからず山崎を抱きしめ


「3年生を無事卒業したら、こっちにおいで。そして一緒に住もう


親御さんも分かってくれる」


「…はい」


返事が遅れたのは母親の事を想ったのだろう


はたして、福島はその事に気付いただろうか


そして、発車の音が鳴ると2人は名残り惜しそうに別れ、福島は列車に乗った


列車が動き出すと山崎は、福島の姿を追って走り出した


だが、途中で走るのを止め福島が乗っていた列車をいつまでも見つめていた


こういうカップルをシンデレラエクスプレスと言うらしい


…時間が来てしまうと別れてしまわないといけない2人


僕は福島が大学生活で心変わりしない事を願った



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