精油の代謝 | forestwalkingのブログ

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2013年の暮れに、突然この世を去られた、理学博士 藤田忠男先生の研究を掲載していくブログです。

精油の代謝
■精油の代謝

午前中に施術して、午後に違う精油を使って施術した場合に、 午前中に吸収された精油化学成分が午後まで排泄されず蓄積されていると、 午後に吸収された精油との足し合わせた量の血中濃度になる計算になります。 それで、精油の代謝と排泄の問題を考えることが必要になるのです。 精油をローテーションしても、テルペン類などは共通成分なので、代謝されないと蓄積されることになります。

精油の化学成分は吸収、分布、代謝、排泄という経路を辿ります。代謝、たいしゃと発音します。 生体に精油が暴露されても吸収されない化学成分もあるが、低分子脂溶性物質は皮膚からも角質層を通過して吸収される。 バイオアベイラビリティ・吸収率は、投与量と血中濃度の比で、吸収された割合を意味しています。

精油は生体からは異物として判断するので解毒して排泄する。この解毒を代謝とよぶ。 代謝解析では、精油全体を捉えるのではなく、個別の化学成分の代謝経路を考察して、 精油全体ではそれらの経路を合算するわけです。主に肝臓で次々と連続的に代謝されていきます。肝臓は忙しくなります。 しかし、精油には100種類あまりの化学成分が含まれているので、 全体の経路を考察するのは不可能に近いものがあります。 全体の生理作用発現を考えることも不可能といわれています。

このように精油科学成分は植物内の代謝物であり、動物体内で再び代謝をうけるのです。 複雑に化合物の構造が変化しているのです。

医薬品における代謝が広く用いられる学術用語です。 医薬品化学は精密化学なので代謝分析も細かく研究されています。 植物の代謝も古くからの植物化学のテーマです。原理的には動物と植物の代謝は同じ意味なのです。 代謝は連続した化学反応なので、反応の詳細は高等動物と植物では異なるのは当然のことです。 精油は雑貨品として体内に吸収されるものとの扱いはしません。 そのために、精油の代謝を研究することはありませんでした。ニーズがなかったのです。 しかし、現実的にはアロマテラピー施術により精油は体内に吸収されています。

医薬品は経口摂取では小腸で吸収され門脈を通過して肝臓に至ります。 別の投与経路もあり、肺の肺胞経由および皮膚のけい皮吸収で毛細血管から血中内に入り血液循環に入ります。 血中内に入った精油の化学成分は酵素によって化学変化されます。 血液循環は肝臓も経由し、そこで代謝反応を受けるのです。 肝臓では、取りこまれた化学成分はP-450などの酵素で異物を化学修飾します。 P-450は、40年前には知られていた肝臓で薬物代謝に関与する酵素です。 これを代謝の第1相反応とよび、硫酸抱合やグルクロン酸抱合などのことを第2相反応とよびます。 ともに異物を水溶液に溶けるように変化させます。



■血中タンパク結合

通常の医薬品は血漿中で血清アルブミン、リポタンパク質、糖タンパク質、とα、β、γの各グロブリンなどと結合と解離を繰り返す、 この結合は化学平衡の状態にある。精油の化学成分も血中でタンパクと結合する。 タンパク質と薬物・精油化学成分との結合そのものは弱く可逆的だ。 結合型は細胞膜を透過できないので、薬理的効果を示すのは非結合型で、代謝や排出作用を受ける。 例をあげると、抗凝固剤ワルファリンのタンパク結合率は97%であるが、これは血中では総量の97%が血漿タンパク質と結合して生理活性を示さず、 残りの3%が細胞内へ運ばれ活性を示す。 精油の化学成分も血中でタンパク結合すると考えられる。遊離型のみが生理活性を発現する。詳しい結合・解離については研究されていない。


■アロマテラピー施術における吸収

首やデコルテに精油を塗布すると、精油が揮発して鼻から空気として肺に吸い込まれます。 肺は酸素と同じように肺胞で吸収されて毛細血管・静脈を経て心臓から体循環に入り全身に分布します。 精油化学成分は注射剤と同じように血液に直接に導入されるので、一次的に肝臓で代謝されることはありません。

この場合では、被施術者と施術者も精油で暴露されます。 直接に手のひらに精油を持ち、口腔粘膜や肺胞から吸収されています。 被施術者は健康被害者、施術者は労働災害者とよばれます。 長時間の労働で精油が暴露されているときは、代謝による排泄が追いつかず体内に残留しています。

この場合に、精油は時間軸で考えて、体内に入った精油は残存するのか、代謝されて毒性を失い排泄されるのか。 このようなことを考えるのが精油の代謝なのです。精油には麻酔、陶酔効果、鎮静効果がありますが、 ある一定時間内に効果が切れないと問題になります。精油成分が体内に存在すると中毒になります。



■植物の代謝と生体内での代謝

精油の代謝には、二つの意味合いがあります。植物体内の代謝の産物としての精油があります。 精油は自分の身を守るために多くの化学物質を体内に保っています。 植物は口から化学物質を摂取することはできず、自分で作り出さなくてはならないのです。 そのために、精油化学成分は植物の二次代謝物といわれています。 ここで、一次代謝物とはアミノ酸とか糖とかDNAのような植物の生命維持に必要な化学成分です。 二次代謝物で植物は外的から身を守ったりしているといわれています。植物のホルモンともいわれているのです。

もうひとつは、精油を吸収する人間は精油を異物と捉えます。 医薬品もそうですが、生体にとっては毒物と考え解毒しようとします。 その解毒された精油の代謝物が更に人間に作用しているのです。薬効は精油の代謝物のためなのです。 植物の化学成分の中には代謝されずに体内で作用する成分もあります。これは未変化体といいます。 たいていは精油化学成分は代謝により排泄されやすい化学形に変化します。



■植物の代謝研究が原点

植物は進化してきました。植物が生き延びるように多くの化学成分を植物体内にもっています。 それを代謝させて新しい化学物質を生合成しています。これも進化過程のひとつです。 最終的に植物連鎖の最高位にある人間の栄養になるのです。植物が昆虫に食べられると困ります。 それで昆虫が近づかないような匂いを発します。虫が腐ったような匂いです。それで虫や小動物が近づきません。 そのために植物は身を守っています。人間はうまく利用するものです。 夏の虫に刺されたりすると人間も困るので、昆虫忌避効果のある精油を皮膚に塗布するのです。 このような植物の代謝は独立した研究テーマになっていて植物化学で研究されています。

ひとつの精油の化学成分は100種類程度は確認されています。 微量成分はわかっていないのですが、GC/MS分析で濃度解析されています。 精油はフランスでは医薬品扱いなので化学成分をGC/MSで定量分析しなければならないのです。 このデータにより精油の代謝解析研究が進みました。

シソ科の植物では同じような化学成分が含まれています。同じ物質から代謝されたものと考えられています。 このように精油の化学成分は二次代謝物と考えられているのです。



■代謝と解毒

解毒とは体内に毒物が入ったときに、その効果を減弱することを解毒といいます。 代謝は毒物に限らず食物や医薬品として体に入ったものを、化学変化させる働きです。 仮に生体にとって毒物であったときは解毒といわれるのです。

精油化学成分は生体異物としてみられるので肝臓で解毒されます。 代謝されないと生命体は生きて行けません。いちど吸収された化合物がいつまでも体内に残存してしまいます。 たいていの医薬品は生体にとっては異物なので代謝を受けるので、その薬理効果は減弱されます。 精油の化学成分の生理活性も体内では代謝を受けるので作用は減弱され、ついには排泄されるのです。 すべての薬物量が代謝を受けるのではなく未変化体は予測通りの活性強度を持っています。 あるいは代謝のメカニズムを利用して化学変化された化合物を医薬品として利用したりします。 これをプロドラッグと呼んでいます。 精油の化学でも同じ原理に基づいて、精油の化学成分の未変化体と、代謝された化学物質が生体に作用していると考えられます。 精油が吸収され生体内で代謝される経路は詳しくは解析されていませんが、薬物代謝同様と考えられます。 100種類以上の化学物質が同時に代謝されるので代謝経路を科学的に解析することはできません。 個別の化合物の代謝経路の研究になっていきます。 現代の技術でも、1つの医薬品や農薬が生体内で代謝される経路を解析するだけで限界なのです。 そのために、医薬品は1種類の有効成分を含んでいるのです。数種類の活性成分を含む複合剤は開発できないのです。 精油の代謝は複合剤の代謝の更に複雑なものに相当しています。



■精油代謝研究の必要性

精油の構成化学成分が生体の酵素により代謝され、複数の新しい化合物が生成されます。 それが、生体内で新しい生理活性をもつのです。 複数の成分を含有する精油をブレンドして、生体内に投与したとき、数多くの代謝物が生成されます。 数百の化合物の代謝経路は多岐にわたり解析不可能です。 完全に解析できないと生体内での安全性は確認できないとの見解が西洋医学です。 このために精油は医薬品として開発できないのです。 代謝化合物を単離して、化学構造解析して、生理活性を特定することは大変な作業になります。 精油が医薬品として開発しようとされない限り、生体内代謝が精密解析されることはないでしょう。

精油の中には数百種類の化学成分が含まれています。ブレンドすると更に多くの化学成分が含まれることになるのです。 それらの化合物および代謝化合物間の相互作用もあり、更に相乗効果もあります。生体内では複雑な作用が生じてきます。 科学的に解析することが困難になっています。それでアロマテラピーは民間医療になっています。人知の理解が出来ない生理活性があるからです。

最近では体力が増強したわりには脳機能が追いつかなくなりました。脳の老化が止められないのです。 脳機能には別の老化のメカニズムがあるようです。脳の老化にともなって脳内には不溶のベータアミロイドが生成しメンタル能力が低下します。 アルツハイマー病と認知症が重なった病気であるアルツハイマー型認知症の治療薬がないので大騒ぎになっています。 良心的な医師の中には、精油を用いるアロマテラピーを取り入れて成果をあげています。臨床試験成績も発表されています。 西洋医学でも脳組織の器質的損傷を防ぐ、あるいは防止することができません。病人は現に存在して治療を待っているのです。



■精油化学成分の代謝研究

精油化学成分の代謝研究では多くの論文が発表されています。 精油が体内に摂取されて代謝経路を研究するものではなく、植物の中で化学成分が代謝されています。 それで精油の中では類似の化学構造をもつものが発見されているのです。 精油を摂取することはないので医薬品開発目的の代謝研究は少ないのが事実です。 代謝研究の手法は GC/MS を用います。品質管理でも GC/MS は用いられています。

■1,8-cineole の代謝

ローズマリーに含まれる 1,8-cineole の代謝の研究は行われている。 芳香環2位の位置の炭素が水酸化されることが実験からわかっている。 水酸化されることで分子構造も水溶性が増す。尿中に排泄されるには水溶性を増す必要がある。 肝臓において cytochrome P450 により代謝される。 この代謝物は水酸化されるために親水性に変る。生体内の分布と挙動も変化する。 代謝物の 2-exo-hydroxy-1,8-cineole と呼ばれる。代謝物の構造は GC/MS により同定されている。

精油に含まれる化学成分は経口摂取では血中に吸収されて門脈を経由して肝臓に至る。 肺や皮膚から吸収された精油化学成分は直接に血液循環に乗り全身にまわる。 血液が肝臓を経由すると、肝臓の酵素 P-450 により代謝されると考えられている。 血液内の酵素によっても代謝される。


■1,8-cineole の代謝物の構造

右図は 1,8-cineole の2位の水酸化物のボールスティック図です。立体的に表示しています。GaussView で書いています。

構造図の右の肩に OH 水酸基が結合しています。ここが2位といいます。 生体内に取りこまれた 1,8-cineole は、 生体内では化学変化すなわち代謝物が生成します。すべての分子が代謝されるわけではないので、 代謝物と未代謝物が混在している状態になります。

精油の化学成分の代謝は立体特異的に反応が起きるといわれていますが、構造解析で確認する必要があります。 代謝物を単離してX腺構造解析で立体構造を解析する必要があります。 GC/MS の解析では立体構造的な問題まで踏み込むことはできません。 この部分はアロマテラピーの研究ではレベルが高すぎます。



■精油化学成分は植物の二次代謝生産物

植物の代謝物には一次代謝物と二次代謝物がある。 一次代謝物とは,核酸,タンパク質,炭水化物,脂質,リグニン,セルロースなどの生体構成物質およびその構成単位であるアミノ酸, 単糖類,脂肪酸などです。

二次代謝物とは,一次代謝物から更に代謝した物質群です。 二次代謝物は植物の進化とともに多様化してきたと考えられ,科・属・種によってそれぞれ特徴のある化合物を生合成しています。 精油の主要成分は,このような二次代謝物のうちのモノテルペン類(炭素数10の化合物),セスキテルペン類(炭素数15の化合物), フェノール類(ベンゼン環を有する化合物)などの化合物群です。 これらの化合物群は揮発性で様々な特徴のある香りを有することから, 芳香成分などとも呼ばれ,植物によって特徴ある成分になっています。

化学が未発達で有機合成化学が無かった頃、有用化学成分は植物由来に頼っていました。 今なお、複雑な化学構造のものは有機化学で合成できず、植物から抽出している状況です。



■精油の作用

精油の作用として、主には匂いとして揮発成分が嗅細胞・嗅神経・嗅球・嗅索を経て大脳辺縁系に刺激します。 この経路で吸収される・作用すると精油の成分は代謝されることなく電気刺激として、脳を刺激するわけです。 ローズマリー精油が嗅覚を刺激しても、その化学成分が大脳辺縁系に達するわけではないのです。 嗅覚がある種の刺激に置き換わり脳の海馬に記憶されるのです。 危険なものではないのか、同じ匂いを嗅ぎ分けられるのです。動物の本能といえるでしょう。 嗅覚力は個人差があるので、 アルツハイマー型認知症患者の嗅覚は損傷してしまい匂いを嗅ぎ分けられないといわれています。

のどの粘膜や肺胞から吸収されています。 精油は経皮で吸収されると毛細血管から門脈を経由して肝臓に運ばれて代謝されます。 ひとの体内に入り代謝のために、植物の中に存在している化合物とは異なるものに変化しています。 変化しない成分もあります。未変化体も残存します。 精油は医薬品や農薬ではなく規制されず、人体に入ることは予期していないので、 このような代謝マップは詳細には研究されていないのです。

精油化学成分によっては血液脳関門を通過し脳神経細胞に結合することで、 直接に脳に刺激として伝わるので、精油は神経系の病気の治療に使われてきました。 ローズマリーは、認知症の改善に効果的といわれています。 アロマテラピーは古い民間医療なので西洋医学の前でかえりみられないことがあります。

精油は生体にとっては異物なのです。異物は肝臓で解毒されますが嗅覚刺激は直接に脳に至ります。 しかし精油の安全性は長い歴史の中で確認されています。 ところが、最近では発癌性やアレルギー性の精油も発見されてきています。 そのような精油は公表されているので多量の常用使用は避けてください。 しかし、長い歴史の中で多くのひとが精油になれ親しんできました。 多くの臨床試験データが集積されてきました。 それで、安全性については心配する必要はないでしょう。 数千年に蓄積された本草書などの文献が残っています。 生体に毒のある植物、たとえば毒キノコは絵本でも教えられ子供は山に行っても食べないように教育を受けているのです。

精油の成分表の化合物のリストをみて代謝経路を予測することもできる。 アロマテラピストがクライエントの皮膚に精油を塗布するときでも、体内に吸収されています。 精油の代謝について知識を持つべきなのです。代謝された化合物が毒性をもつ場合もあります。

植物には多くの化学成分が含まれていますが多くは二次代謝産物といわれています。進化の過程で生合成されたものでしょう。 代謝を勉強すると植物内の化学成分について理解を深めることができます。代謝を受けた成分も残存しているのです。 代謝の進展具合で種が分かれたのでしょうか。研究課題になっています。同じ化学成分が多くの植物に共通して含まれています。 植物内の代謝を知ることで植物の生きる強さを実感し、アロマテラピーの可能性の広さを垣間見ることができるのです。



■精油と医薬品の相互作用

経口医薬品は消化管上部で吸収され、そこでP450により代謝を受け、作用が減弱するが、それを考慮して投与量が決定される。 フロクマリンを含む精油はP450活性を阻害するので、投与された医薬品の効果を増強することがあり、 これは相互作用と呼ばれている。


故・藤田忠男博士のサイトの転載です。

理学博士 藤田忠男先生は、2013年12月に突然この世を去られました。ご冥福をお祈りいたします。