精油の分子薬理学 | forestwalkingのブログ

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2013年の暮れに、突然この世を去られた、理学博士 藤田忠男先生の研究を掲載していくブログです。

精油の分子薬理学
■精油の分子薬理学の問題点

漢方の分子薬理学は存在しない。西洋医学とは違う医学体系だ。そもそも診断方法から違う。 人体の構造にレセプターがあり、それと結合するアクセプターが精油の化学物質になる、という学問体系をもたない。 漢方では病気の症状に対して薬草の処方が対応している。身体の構造に対応しているわけではない。 分子薬理学は西洋医学による医療用医薬品で研究されてきているが、薬理作用を分子レベルで研究することは、現代の最先端手法だ。

精油の分子薬理学は考えられていなかった。その点で漢方と同じ歴史を歩んでいる。 精油は多くの100-200種類に及ぶ化学物質の混合物だ。 実際は精油3種類をブレンドすれば300-900ぐらいの精油化学成分が混じっていることになる。 それぞれの化学物質が個別に生体と相互作用している。1つの化学成分が複数のレセプターと相互作用していると思われる。 その相互作用を分子構造間の弱い結合として考えるのが分子薬理学だ。 多くの化学成分が同時に生体に吸収されるので、個別の化学成分が相互に影響しあい相乗効果やクウェンチング効果を発現している。 更に問題が複雑になるので、このような相乗効果やクウェンチング効果も解明されていない。 実際は複数の精油が適当な混合比でブレンドされて使用されている。 この場合は存在比率が異なる数百の化学成分が生体に吸収される可能性があるので、化学成分の吸収・代謝・排泄を解明することは不可能に近い。 これらの精油の分子薬理学の解析は人知を超えているといえる。

分子薬理学は医薬品開発では確立された学問体系だ。西洋医学では医薬品の作用を分子レベルで解析しなければならない。 医薬品の作用メカニズムが分子レベルで解明されないと医薬品として承認されないといわれているぐらいだ。 伝統医療の精油はこの分子薬理学研究に追いついていない。たとえば、製薬会社にとって精油販売は利益にならない。 そのために製薬会社が精油の化学や分子薬理学の研究をすることはない。



■ドラグーレセプター理論

精油の化学成分は生体内で活性をもつ。精油化学成分は医薬品・ドラッグとみてもよい。 精油化学成分が特定の臓器の細胞膜のレセプターに結合することで信号が伝わって薬理効果を発現すると考える。 精油においては作用メカニズムは詳しくはわかっていない。結合するメカニズムもわかっていないくらいだ。 最近はレセプターの構造が知られるようになってきた。精油の化学成分は体内に吸収されて各レセプターに結合する。 精油には百種類程度の化学成分が混合しているので多くのレセプター部位に結合することになる。 これら複雑な活性を相乗効果あるいはクウェンチング効果と呼んでいる。 相乗効果はプラスの効果として現れることをいう。ときには危険なこともある。 アロマテラピーではこれら分子薬理学的メカニズムはほとんど解明できていない。

精油の化学成分は吸収され血中に入る。血液循環の過程で細胞膜の受容体と結合する。 具体的に、どの化学成分がどの受容体に結合するかはわかっていない。 医薬品分子の結合する受容体は研究されているが、 精油の化学成分はかなり多くの受容体に結合していると考えられている。



■GABAレセプター

右図は脂質2層からなる細胞膜表面にタンパクがあり受容体があり、イオンチャンネルもみえる。 しかし、精油を人々が歴史の中で使い始め今日に至っている事実は残っている。精油のはたらきが時に逸話として残っているものもある。 精油のはたらきを分子レベルで解明することは次の歴史になると思う。下図は GABA レセプター、チャンネルの概念図です。 精油の鎮静効果は化学成分がGABAレセプターに結合するという予測です。 GABAは、鎮静効果に関わることもあるレセプターです。アロマテラピー精油研究に関わってくるかもしれません。 しかし、民間医療としてやっているアロマテラピーで、このようなレセプター結合研究をすることは当面は不可能です。





■薬理作用の発現

精油は皮膚や肺胞などのいくつかの吸収経路を経て血液循環に乗り全身に分布する。 肝臓で代謝されるものもある。血液内の酵素により化学変化する精油化学成分もある。 代謝物は未変化体とはことなる薬理作用を発現する場合もある。 これらが全身の臓器の細胞上にある受容体・レセプターに結合したり、GABA のようなイオンチャンネルと相互作用する。 このような結合が刺激になり薬理作用が発現するといわれている。 アロマテラピーでは受容体で結合することを作用点とよんでいる。 精油には100-200種類の化合物が含まれており、複数精油をブレンドしたときは数100の化合物が全身に分布することになる。 これらが、それぞれ受容体に結合するので、その薬理作用は複雑なものになる。



■アセチルコリン受容体のはたらき

アセチルコリン受容体(AChR)は神経伝達物質であるアセチルコリンの受容体である。 アセチルコリンによって刺激され薬理作用が発現するので、コリン作動性受容体とも呼ばれる。 アセチルコリン受容体は代謝調節型のムスカリン受容体とイオンチャネル型のニコチン受容体の二つに大別される。 ムスカリンがムスカリン受容体アゴニストとして、ニコチンがニコチン受容体アゴニストとして働く。 アセチルコリンはどちらの受容体にも結合する。 アセチルコリン受容体に作用する薬とか精油化学成分は、その作用する受容体及びその受容体の存在する組織によって異なる作用を示す。 薬物や精油化学成分の中にはどちらにも作用するものと、どちらか一方により選択的に作用するものがある。 通常はアセチルコリンが結合するのに、精油化学成分が優先的に結合するとアセチルコリンが結合できなくなる。 この場合、アセチルコリンの作用を阻害するという。

迷走神経(副交感神経に属する)の終端より放出されたアセチルコリンの受容体が心臓にあることがわかっている。 アセチルコリンがこの受容体に結合することで、心臓の活動が抑制され拍動が遅くなる。 運動神経と骨格筋の接合部では、アセチルコリンが放出され、その受容体があることが分かっている。 ここでは、アセチルコリンが受容体に結合することで、骨格筋である横紋筋が興奮し収縮することがわかっている。 つまり、アセチルコリンは心臓の細胞活動を抑制し、その一方、骨格筋を興奮させている。 このようにアセチルコリンの作用は臓器によって異なり、アセチルコリン受容体のサブタイプが複数種類あることが確認されている。



■ニコチン性アセチルコリン受容体の構造

全部で対称性のよい5個のサブユニットからなっている。アセチルコリンが結合すると、NA+, K+ がレセプターに流入して開くイオンチャンネル。 この図はブリタニカから借りた。とても分かりやすい図だ。受容体の構造が解析されている例だ。 アセチルコリン受容体には異なった応答をする受容体サブタイプが器官ごとに存在するため、 副交感神経の刺激(神経伝達物質アセチルコリン)に対して様々な応答をすることがわかっている。