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家屋や財産は没収、家族とも離れ離れにされ、想像を絶する艱難辛苦に遭った人々の数は知れない!
政府首脳はロンドンに逃れ、亡命政府を樹立し、ポーランド国内軍に旧体制を取り戻すべく反ナチスの戦いを指導して、レジスタンス運動が起こった。また時を同じくして国内の共産党を中心とするパルチザン組織もナチス・ドイツ軍へのレジスタンス行動を行い競合しながらも、反ナチスという共通項から、自由を求めて戦い続けた。
一方、革命家達の多くはソビエトに亡命し、そこで軍隊を組織してソ連軍と共にポーランド国内に進撃した。これらの混合軍は共産党系パルチザン組織の熱烈な協力を得て、1945年5月ポーランドを解放し、社会主義に依るポーランド新政府を樹立した。
しかしこの解放は、ロンドン亡命政府の指令によってレジスタンス運動を行ってきた連中を微妙な立場に追い込んでしまった。新政府に不満を持つ亡命政府は、その矛先を新政府に向け、反共産主義、反ソビエトを宣言したのであった。
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その後、ソビエトからの圧迫に依る“沈黙の時代”が訪れてくる...。
『灰とダイヤモンド』はスターリンの死後、“沈黙の時代”に僅かばかりの雪解けの気配が見えた時に、文壇や映画を通して十数年前の民族の悲劇を、痛恨を込めて表現するようになった。
原作者のイェジー・アンジェイエフスキーも監督のアンジェイ・ワイダも同時代に生き、辛い混沌期を体験した者同志だったのだ!
掛替えのない青春を祖国に捧げ、時代の流れから疎外されたマチェクのやり切れなさ、束の間の恋愛とその後の孤独感を、戦争を知らないボクらはどれだけ理解出来ようか!!
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見張りの男が車が近づいてきていることを告げた。マチェクは教会の入り口に飛び出すと、脱兎の如く自動小銃を乱射した。車が転回し、一人はうつ伏せになり、もう一人は放り出された。死んだかどうか確認するマチェク。倒れた男は走り出した。それを追うマチェクとアンジェイ。男は教会内へ入り込もうとするがマチェクが止めを刺した。
こうして党地区委員長シュチーカを始末した...と思って逃げ出す3人。
やがてシュチーカ(ワツラフ・ザスチンスキー)を乗せた車が遅れて着いた。「こんな殺人がいつまで続くのか?」地元の労働者達が一斉にシュチーカに不満をぶち蒔き、詰め寄った...。
マチェクとアンジェイは、占領中は反ナチスのレジスタンス運動に参加していたのだが、今は新政府に反対する立場に回り、町長やワーガ少佐の指令で重要人物を暗殺する任務を負っていた。
教会から立ち去ったマチェクとアンジェイはモノポール・ホテルに身を潜め、見張りの男だった町長秘書と落ち合った。その夜このホテルでは新政府樹立の祝賀パーティが催される為、要人らが集まってきた。
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シュチーカが宿泊することを確認したマチェクは隣室の部屋を取って、暗殺の機会を窺おうとしていた。窓を開けると向かいの部屋の様子が目に入った。それは誤殺した男の許婚が泣いている姿だった...。
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その頃、アンジェイがワーガ少佐に電話報告をすると、すぐ居場所に呼ばれ、シュチーカの暗殺の強行を命ぜられていた。そのワーガ少佐を匿っている家の夫人は、シュチーカの死んだ妻の実姉で、ロンドン亡命政府側を支持していた。
シュチーカがスペイン動乱からモスクワへ革命教育で長い留守の間、幼い息子を預かっていたのが彼女で、シュチーカにしてみれば反動勢力の義姉に自分の息子を任せたくはなかった。
シュチーカが義姉の家を訪ねると、夫人は面倒くさそうに応対した。しかし息子はワルシャワ蜂起以後、行方が知れずにいた。実際この時、シュチーカの息子はマチェクと同じ“おおかみ団”の組織の一員となっており、父とは相反する立場にいたのだ...。
これも戦争が生んだ家庭の悲劇で致し方ない暗部であったのだ。
ホテルには様々な要人が集まってきた。町長らが出迎えていたが、本来その場所にいるべき町長秘書ドレウノフスキー(見張りの男で暗殺の手助けをした男)の姿が見当たらない。この頃、町長秘書は酒飲みの老新聞記者に「町長が新政府の大臣になる。」
と絡まれていた。そのままバーに連れて行かれ、情報収集の為、酒を奢る羽目になったのだ。
出世の機会と睨んだドレウノフスキーは、町長に遅れた詫びもほどほどに祝賀会の幹事を務める有様だった。
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アンジェイは国内軍に所属しており、「明朝4時に任務でワルシャワへ発つ。」と言った。どうやら二人の仲間で“おおかみ団”の指導者が葬られ、その後釜としてワーガ少佐から命令が下ったらしい。
「それまでにシュチーカを殺す! 一緒に連れてってくれ。」とマチェクは頼んだ。
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部屋でマチェクが小銃の点検をしているとドアの叩く音がする。警戒しながらドアに近づくマチェク。それはクリスティーナだったのだ!
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「貴方なら後腐れがないから来たの。」クリスティーナが語った。「本当は自信がなかったんだ...。」マチェクは言い返しながらも、床に落ちた弾丸をクリスティーナに気づかれないように探していた。
マチェクはクリスティーナの過去を尋ねた。彼女の両親は死んだ年こそ違えど、二人とも戦争で亡くなっており、彼女も自分と同じ身寄りがない者であることを知った。
クリスティーナもマチェクのバーとは違う純情な態度に気づいていた...。
その頃、祝賀会場では町長が祝辞を述べていた。そこへすっかり泥酔した町長秘書ドレウノフスキーが、老記者を連れて会場へ押入った。秘書の醜態に顔をしかめる町長。
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マチェクは任務を遂行することを忘れてはいなかったが、彼女への愛が深まるにつれ、暗殺への疑問が募ってきたのだ。レジスタンス活動中に死んでいった無数の仲間のことを思い、クリスティーナとささやかに暮らしていくことを夢見るようになったのだ。明らかにマチェクの心はぐらついていた...。
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二人が外に出ると激しい雨が降り出してきた。二人は走り、教会の廃墟に雨宿りした。そこには墓碑銘があり、クリスティーナが読み始めた。
“松明のごと、なれの身より火花の飛び散る時
なれ知らずや、わが身を焦がしつつ自由の身となれるを
持てるものは失わるべき定めにあるを
残るはただ灰とあらしのごと深淵に落ち行く混迷のみなるを
永遠の勝利の暁に、星の如く輝けるを...”
下部の方は光が当たらず、字が見えなかった。マチェクがマッチを渡し一人呟く「ノルウィドの詩だ!」そしてその後を続けて言った。
“君は知らぬ、燃え尽きた灰の底に、ダイヤモンドが潜むことを...”
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そこへ目を覚ました管理人は入ってきて怒鳴った。「最近の若者は死者を敬うことも知らないようだ!」
その言葉にマチェクが下を見ると、足元には昨日マチェクが誤殺した二人の棺が安置していたのだ! 悲鳴を上げるクリスティーナ。
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すぐにシュチーカに連絡が入り、彼は心を痛めた...。
ホテルに戻ったマチェクとクリスティーナ。裏側で二人は名残惜しそうに別れた。そこでマチェクはアンジェイの姿を見かけ、思わずトイレに潜んだ。マチェクを見つけたアンジェイが「組織を裏切って女と逃げるのか! それなら俺がやる!」厳しい口調ではあったが、アンジェイが見せた真心だった。
アンジェイの真意を悟ったマチェクは、この任務を最後に組織からの離脱を決意した。
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捕まった息子に接見する為、傷心のシュチーカがホテルを出た。それを見届けたマチェクが後をつけた。外は相変わらず雨が降っていた。一度彼を追い抜く。シュチーカを舗道に詰めるためだ。そして振り向きざま、立て続けに銃弾を浴びせると、シュチーカはマチェクの身体に持たれかかり、水溜りに崩れ落ちた。
その時、ナチス・ドイツ軍の陥落を祝う花火が夜空を昼のように照らした。
任務を終えたマチェクは部屋で荷物をまとめ、こっそりホテルを出ようとした。窓から眩しいばかりの朝日が射していた。光の線の下にはクリスティーナが立っていた!
「4時の列車でワルシャワへ向かう。」じっと見詰め合う二人。クリスティーナの頬には僅かに涙が光っていた。
祝賀パーティはまだ続いていたが、二人にはその喧騒も聞こえなかった。
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マチェクを見つけたドレウノフスキーは、助けを求めてマチェクに追いすがった。しかしマチェクはもう彼らとの絆を断ち切りたくて走り出した。
逃げるマチェックは街角で保安部隊にぶつかった。その時、銃を所持しているのが見つかり、マチェクはまた走り出した。保安部隊は警告を無視したマチェクを容赦なく狙撃した。
ホテルの祝賀パーティも終焉を迎え、来賓者達はそれぞれのパートナーと共にポロネーズを踊っていた。順に皆の顔が映り出される。町長、伯爵、軍大佐、その夫人...まるで魂が抜かれたかのように無表情だった。
クリスティーナも輪の中に加わっていた。マチェクを思い、大粒の涙を流していた。
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シーツに身を包んだマチェク。しかしシーツを掴んだ手にはべったりと血が付着していた。
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死ぬのは嫌だった! 最後の抵抗を試みたマチェクはうつ伏せになったまま両足をバタバタさせた。微かだった意識も遠のき、マチェクの身体は動かなくなった。
『灰とダイヤモンド』が公開された頃のポーランド国家は、ソビエトからの圧政の影響下で社会主義体制が強固だったと思う。当然、表現活動の中でも社会主義の価値観、イデオロギーに反するメッセージが含まれるものには厳しい検閲があった筈だ。
ナチス・ドイツ軍から解放されても訪れなかった平和と個人の幸せ。マチェクの生き様からポーランドの過去の悲劇と今の苛酷さを世界に知らしめる為に、アンジェイ・ワイダ監督は非常に緻密な計算をしていたようだ。
有名なラストシーン...マチェクが両足を痙攣させて絶命する箇所は、反政府運動の無意味さを表現したものだとポーランド労働者党から賞賛されたようだが、ワイダ監督の狙いはマチェクに共感するように仕向けたことだ。
おそらくマチェクも戦争で両親や兄弟を亡くしたのであろう。多感な青春期のほとんどをレジスタンス活動に従事し、祖国の解放の為にその身を捧げ、敵対人物を暗殺することもあれば昔からの仲間を失うこともある。
結果、自由を求めながらも、マチェクはいつも孤独を背負っていたのだ。
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“普通に家庭を持ってささやかに生きたい”という欲求が芽ばえた瞬間であったのだ。それまでそう考えることさえも及ばなかった環境にいたのだろう...。
だが運命は残酷で、自我に目覚めたのも束の間、数時間後には若い命が絶たれてしまう...。
しかし亡命政府も新政府側もマチェクの存在など知る由もない! 彼はただ利用するだけの“組織の一片”に過ぎない。互いの体制強化という思惑に翻弄され続けた20数年間だったのだ。
それすら気づかず死んでいったマチェク...。愚かな青年だと思うのは検閲官とその周辺だけで、多くの人々はマチェクに感情移入して同情したであろう。
ワイダ監督の訴えはしっかりと支持されたのである!