(第164回)身は悪鬼?ヒーロー?
僕は宗教やスピリチュアルなことには詳しくはないが、輪廻転生というものは信じている。人には前世があるのだ…。我が身の前世は悪鬼かヒーローか? というか前世が人間とは限らない。
例えば、うちの近所で時々見かけるおばちゃんは、いつも手さげ鞄を腕にかけ、手首を前に曲げてひょいひょいと歩く。そして鞄を持っていない時でも、両手の肘と手首を曲げたまま歩いていた。これはほぼ99%、前世はカマキリといっていいだろう。もし、好物は?と聞かれれば、「イナゴの佃煮」と答えるでしょう…。
知り合いの女の子は、大の筍(たけのこ)好き。シーズンが来れば異常にワクワクして、ほぼ毎日筍を食べるそうだ。筍と心中してもいいというほどだから、前世は明らかに筍を主食としていた生き物である。そこで僕は、
「多分、きみの前世は筍につく虫の類いやな…」
といった。
「え?そんな虫いるんですか?」
「なんか筍虫とかいうのんがいた気がする…」
いやいや、若い女性に向かって「前世は筍虫」とは何ともデリカシーに欠ける発言…しかも家に帰ってよくよく調べてみると「筍虫」というのはウマバエの幼虫のことで、形状が筍に似ているからそう呼ばれるそう…筍好きとは関係ない…。どんな人だって「前世はウマバエの幼虫」といわれて嬉しかろうはずはない。
さらに調べると、筍を主食にする生き物が他にも…パンダである。パンダの主食は「笹、竹、タケノコ」と図鑑にも書いてある。パンダなら女の子は喜ぶだろうと次の日その子に、
「きみの前世は筍虫ではなく、実はパンダだった」
というと、
「私が丸顔でたれ目だからパンダですか?」
とムッとされた。いやはや、女性の前世を当てるのは、ある意味難しい…。
先日出かけたバーベキューに来ていた若い女の子が、川でカエルを見つけて異様に怖がっていた。友達がそれを面白がり、カエルを見つけては彼女に突き出し、その度にその子は気絶しそうな声で絶叫していた。
しかし僕は解せなかった。どう見てもその女の子は「カエル顔」なのである。なぜ、けろっこデメタンの様なカエル顔の子が、同類のカエルをそんなに怖がるのか…?
そこでふっと思い出した。僕は小学生の頃ブラジルに住んでおり、旅行ででかけたアマゾン近くのホテルの庭で夜、体調25センチほどの巨大ガエルを見かけた。そのカエルは、街灯の下に落ちて来るカブトムシを捕っては食べていた。カメレオンのように、シュパッと舌で巻き取って食べるのである。
そしてそこには、虫を求めて集まる小型のカエルもいた。目の前で動くものは何でも、瞬時に口に運ぶのがカエルの習性…。小さな虫を捕るのに夢中になっていた小型ガエルは、シュパッとモンスターガエルに食べられてしまった…。
僕はバーベキューで知り合ったその子を見ながら、
「きみの前世は、ブラジルのアマゾンで大型のカエルに食べられた、小型のカエルだよ…。だからカエル顔なのにカエルが恐いんだよ…」
と思った…。が、筍の轍(てつ)があるので、いわずに黙っておいた。
2008年9月1日号掲載

美輪明宏 1935~
日本の歌手、俳優。現在は「霊感タレント」としてテレビ番組にも多数出演。
| 追記・・・身は悪鬼?ヒーロー? = みはあっき、ひーろー = 美輪明宏…。他人の前世を想像するのは難しくもあり、面白くもあります。にしても、カマキリだの、ウマバエの幼虫だの、巨大ガエルに食べられた小型のカエルだの、失礼千万(笑)、どうかあの人たちがこの記事を読みませんように…。 |
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