何十年に及ぶ日本各地の手打ち蕎麦屋遍歴は300店舗を裕に超えているが、その中でも常にベスト3に入っているいいお店です。
今回久しぶりに岐阜県美術館のルドン展も兼ねてお昼 お邪魔しました。
静かに佇む古民家 坪庭 三和土、店内は、一気に何十年もの遠い昔馴染んだ 光を抑えた日本家屋の屋内、何もかも日本の昔の佇まい。
真昼なのに薄暗く 灯りが生きる
これこそ日本家屋 そして20W位の電球の灯。
昔日本人はこういう光源で水墨画や書を描き 観ていた。
こういう光源でなければ本来の日本画や書の本当の美しさは出ないのに 現代の美術館は明るすぎて書画を裸にしてしまっていて、特に若冲などは明る過ぎる照明のためにギンギラのアニメ化してしまっている。
座敷では他のお客が蕎麦を食べているが、私は個室
予約したので、通されたのも、もう忘れられたような四畳半。
弱い光源の四畳半
目を休め、心を休め 子供の頃の旧家を思い出し 落ち着く。
ゆっくりと和の小部屋でくつろぎ酒を傾け仕上げで蕎麦を食べる 大人の楽しみ。
究極の蕎麦環境である。
胡蝶庵仙波は予約不可なのですが、昔から蕎麦三昧だけは予約ができる。 予約ができて、和の個室でゆっくりと食べられ、蕎麦がき、卵焼き、蕎麦寿司がセットに入っているので、蕎麦三昧しか注文しません。
こうやって料理は決まっているので、お酒を注文する。
お酒のメニューも何十年も同じ銘柄
その中から、今回は2種類を
達磨政宗 熟成古酒
日本晴れ70%精米
今年は辰年だから、一年前巳年と一周前の12年前辰年のブレンドらしい。
私は自宅で20年以上様々な銘柄の日本酒を冷蔵庫や冷暗所、室内3箇所で寝かせていて多少はわかるのですが、
このお酒、濃い琥珀色になっているが、いくら70%の底精米でも冷蔵保存では12年ではこういう色には絶対ならないから、常温熟成なのだろうが、たった12年でこれほど濃い色に変わるということは冷暗所保存ではなく夏などは30度かそれ以上に上がる普通の倉庫で保存されているのではないかと思う。
味は、紹興酒の感じが2割入ったやや枯れた辛口の感じ。
もう一つは
房島屋 純米吟醸
山田錦 掛米五百万石
50%精米
山田と五百万石をかけてあり、まあ普通の純米吟醸
料理
蕎麦寿司
軽い酢が効いてておいしい。
達磨政宗がよく合う
おすまし
あられ
熱々
お味も京風さらりといい感じ
蕎麦がき
手挽き蕎麦がきに変更していただくのを忘れていて、普通の蕎麦掻き
粗挽きだが粉に角がない。
見ただけで「うまいぞ」っと言っている。
そばのアクは感じさせず素直に甘くてトロっとしている とろみはきぬかつぎの柔らかいものに近い。
なかなか良い
これも達磨政宗古酒がよく合う
卵巻き
軽い和出汁の優しい味
天ぷら
野菜と海老2本
揚げたて熱々
いつも思うが海老は美味しいけど1本で野菜の方が好きだな
手打ち蕎麦
そばは栃木産
ざる蕎麦と太打ち蕎麦
どちらも同じ粒子24メッシュ(笊の1インチ2.54cm幅に24本=粒子が1.045mm)の超粗挽きで、
切り方は20本(1寸を20本(1.5mm)に切る)のざる蕎麦と、 13本(2.3mm)位の太打ち蕎麦。
並打ちは細い分だけ喉越しも良いが、
太打ちは、当然だがねっとりとして蕎麦の香りも味も十分でていて旨い。
太打ちを出す店は増えたが、まだ蕎麦屋の5%にも満たない。更に24メッシュほどの超粗挽きを出す店は1%以下。
話は外れますが、
私が太打ちの旨さにハマったのが40年程前で、24メッシュ(粒子が1.045mm)より更に粗い20メッシュ(粒子が1.255mm)の超粗挽きを自宅の石臼で手挽きして打っていましたが、更に旨みだけを追求して20年ほど前からは、篩いを使わないで手碾きの一度挽きに変え、大きな粒は2~3mmが混ざる超々粗挽きの十割蕎麦を打っています。これはすこぶる旨い。
しかしこれは大変。20メッシュまでは普通の打ち方でなんとか繋げるのですが、この超々粗挽きは粒子が粗すぎて特別なやり方で時間を掛けなければ繋がらないので蕎麦屋でやられるところはありません。
閑話休題
元の話
粗挽き蕎麦は主に塩で食べるので蕎麦つゆは時々しか使いませんが、胡蝶庵の蕎麦つゆはバランスが特に良いです。
11時オープンで11時15分にはもう帰る人が3組もあり、持ち帰り客かと思ったら、後で聞いたらもう食べて帰られたとのこと。
席について注文して食べるのだから、どんなに考えても食べる時間は5分位しかない。
笊蕎麦だけを頼み、ササッと飲み込むように食べサッと帰る。
まるで江戸時代の江戸っ子みたい。 すごいね。
しかし、そんなに早く飲み込む様に食べるなんて勿体ない。
そばも生き物。風雨にさらされながら懸命に生きてきたもの。きちんと味わって食べてあげるのが礼儀だと思う。
『食べる』ということは食だけでなく器や調度、空間、環境まで含めた総合芸術であると考える自分としては、落ち着いた場所でゆったりと酒とつまみを味わいながら蕎麦を楽しめるこの胡蝶庵仙波の世界には感謝しかない。