物語の生まれる料理 | foo-d 風土

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自然や芸術 食など美を 遊び心で真剣に

 蕎麦懐石の予約をいただくと、いつも3週間ほど前から食べられる花や木の実などの自然の幸を探しに野山に出かけます。

 

 地産地消ですから、出かけるのはほぼ三里四方(12k㎡)。

 出かけても見つからない日も多く、いつも見つかるものではありません。でも、使えるものが見つかると嬉しいです。そして見つけたものからお品書きに加えていきます。

 

 今年は特に天候不順も激しく、例年なら実っているはずの木の実や、咲いているはずの山の花が咲いていません、咲くのも早かったり遅かったり、見つけてもごくわずか。あまりにも僅かなときは、可哀そうで採らないで帰ります。

 

 恵那峡に200本以上ある桜。咲くには咲きましたが、今年は全く実がなっていません。花の後の雹や急な低温、そして高温。辛うじて実をつけたのはわずか2、3本。たったの1%、その実も実らずに落ちてしまった。そんな悲しい厳しさを見つける今年です。

 

 そんな天候変化が激しく大自然も振り回されている今年ですが、今回の7月初旬の文月の蕎麦懐石は、4週間ほど前から様子見に野山に出かけて食べられる花や木の実を探しましたが、なかなか見つからず、今年はやはり大変そうだと実感。

 

 山に入り しばらく行くと なんと、白い可憐な野薔薇を発見。

 野薔薇は特に尖った棘がたくさんあり、手折る時に何度も刺されるんですが、でも、こんな可愛いものをお客様に出せたらどんなに嬉しいことか、喜んでいただけたら嬉しいと、花びらをちょうど四人のお客様が食べられる量を摘んできました。

 

 召し上がっていただく時には、お皿に咲いている花も一輪 一緒に飾らねば、野山の蕎麦懐石の最初のアミューズ(一口のお楽しみ)としては失格です。

どうしても4名さま分で4輪の花が必要です。

 3週間後またここへ来た時になんとか花が咲いていますようにと祈りながら帰路へ。

 

  家で軽くゆがいてほんの薄味だけをつけて冷蔵庫へ。

 

その後35℃以上の真夏日が2、3日あり、雨の日もあり、野の花のことがとても心配。

 様子を見にいくと案の定 たくさん咲いていた花はすべて枯れていました。

 仕方ないから、他の場所数カ所へ行ったら、運が良いことに少し咲いていた。

ああよかった!これで野薔薇のアミューズがお出しできる。

 懐石の直前に採りにこよう。

 

 懐石の3日前に採りに行ったら、暑さで枯れてなくなり、別の場所で見つけたものも枯れていて、他の山にもありません。

 

残念だけど 野薔薇のアミューズはもう出せないな 諦めました。

 

 お客様をお迎えするのに玄関に野山で採ってきた花を生けますが、この時期、生花に使えそうな自然の花は、山の小紫陽花や、里の紫陽花など、紫陽花科の花ばかりしか見つかりませんでした。紫陽花科の花は水揚げが難しくて多くが2、3日で枯れてしまうんですが、他が見つからないので、2週間前に紫陽花を摘んで帰りました。

 

一週間で紫陽花3本のうち2本が枯れ

 蕎麦会席の前日も、やはり紫陽花は枯れ気味、こんな元気のない花はお見せできません。

 蕎麦会席の前日、仕込み作業が大変でしたが、夕方、もう一度、飾る花を探しに出かけました。

 あちらの山で、少し見つけてもうこれでおしまいかな、時間も遅くなるし、でももう一箇所最後に行ってみようと 午後5時過ぎ 別のところで紫陽花をみつけ、帰る直前。

 

なんということでしょう。

 

 諦めていた野薔薇の小さな木が1本

 最後の花を咲かせているではありませんか。

 

それも、咲きそうな蕾の数が5つと 小さな蕾が2つ

 こんなことがあるなんて

もう 涙が溢れてしまいました。

 

 ああ あんなに探しまわって なかったのに

  最後の最後

 

   懐石の前日の夕方に

  大自然の神様はそっと用意をしておいてくださいました。

 

今回来られるお客様は素敵な方達なのでしょう

  だからそっと用意してくださったのでしょう

 

  小さな蕾は野薔薇のために残して

    咲きそうな花を4つだけ

たった一皿だけど多くの時間と思いが生まれ

  こうやって小さな野薔薇から

    一皿の物語が生まれ

    さらに一皿ごとに物語がつづいていく

 

本当にありがたい

  素晴らしい経験

 

周之介の

 物語のある料理

  恵那の野山の 蕎麦懐石

私の求める料理は

 人々が遠い過去に置いてきた季節の今を喜ぶ「自然の味」や、

  食材の「素の味」を感じていただきたい遊び心のささやかな料理

 

 余分な味をつけない

  「素に遊ぶ料理」です。

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 文月の蕎麦懐石

 まず最初にお出しする

 アミューズ(ひとくちのお楽しみ)は、

 

  清らかで

   微かに甘く

    微かに渋い

    初恋にも似た味わい

 〈野薔薇のしずく〉 から始まります。

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  器も長皿もこのアミューズ用に地元の土で自作した地産地消です