これまでの時代においては、モノやカネを外発的動機として利用することができました。バブル期にはモノやカネがモチベーションとなり、その一方で、「カネのためならなんでもやるのか」といった逆のベクトルのモチベーションも生まれました。
 なので、バブルを経験した人たちからは「働いた分だけ儲かって豊かな生活ができる」という肯定的な意見と、「馬車馬のように働かされてかわいそうな人たちだった、私はカネなんかじゃ動かなかった」という意見の両端を聞くことができました。
 つまり、外発的な動機付けと、それを否定する内発的動機付けが同時に利用できたということです。
 さて、現在はこういった動機付けのモデルを使っても上手く機能しません。少なくとも、私がこれまでに勤務した高校でまともに機能している例を見たことがありません。
 なぜでしょうか。時代や技術の変化を背景にして考えてみます。

 まず、現在の子どもたちにはバブル期のような大企業への憧れがありません。これはSNSやインターネットの普及で、大企業に就職した人たちの情報を簡単に取得できるようになったことに大きな理由がありそうです。高収入であれ、肩書きが立派であれ、どういったケースにおいても、それに伴う苦労があることを何となく認識できてしまいます。
 同じように、当時3高と呼ばれた高学歴・高収入、ましてや高身長までもが、大多数の魅力には映りません。SNSなどの技術の普及によって「得るものが大きければ、失うものも大きい」といった事実が明らかになりました。
 日本経済の状況を見ても、終身雇用制度は普通ではなくなり、カネやモノに囲まれた生活を見れば見るほど、「ちょっと違うな」と感じてしまっているのが、現在の高校生です。
 そして、高校の内情としては、一部の進学校でない限り指定校推薦や学校推薦、総合型選抜を利用して進学する生徒が大多数です。大学側の事情もあるでしょうが、それほど悪い成績や生活態度でなく、こだわりもなければ誰でも大学に進学できる状況であることは確かです。
 高卒就職にしても同様に、欠席が異常に多いなどの特殊な事情があって、不採用通知が来てしまう生徒もいることはいますが、ほとんどの生徒は初回の面接試験で合格通知をもらえるという所謂「売り手市場」です。

 なかには、例外的に好奇心旺盛で熱心な生徒もいますが、知能指数で標準偏差をとった場合の両端5%程度の人数しかおらず、残り95%はそうではないのが事実です。
 大半の生徒の本音は「今楽しければそれでいい。ゲームや動画視聴、そこそこの友人関係で時間をつぶしたい」というものです。なんだかやるかたない気持ちになってしまいますが、もはや、現在の学校においては、モノやカネなどを外発的動機付けには使えません。

 それでは、次に内発的な動機付けについて考えてみます。
 心理学者ブルーナーは、内発的な学習意欲を高めるために外側からどのような統制が可能になるかをいくつか挙げています。
  1.好奇心
  2.能力向上への欲求
  3.モデルを見習う欲求
  4.社会的相互性
 などがそれにあたりますが、上記の理由から「能力向上への欲求」からの切り口は上手くいかないことが予測できます。また、スマホの普及によって、なんでもすぐに調べることができるため「好奇心」による統制も難しい。
 よって、「モデルを見習う欲求」あるいは「社会的相互性」を重視することが賢い手段だと言えます。わかりやすく言うと、モデルが「型」、相互性が「組手」ということです。これからの社会では、モチベーションをどう持たせるか、維持するかが重要な要素になることは間違いないのです。