向日葵揺れる 【銚子電鉄】 | てっちゃんのまったり通信

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大きなお日様色の花が一斉に風に吹かれて揺れる。

ふわり、ふわりと右に左に。

それはまるで柔らかい曲に乗って

皆が息を合わせて踊りを踊っているように見えた。

群れをなして咲いている向日葵。

不思議に、その一本一本にそれぞれのドラマがあるように感じてしまう。

どうしてだろう。

仕事の帰り道の人こみはあんなにうっとうしく思うのに。

この言葉を持たない花の群れを見ていると、

その一本一本を抱きしめてやりたいくらい愛おしく感じる。

向日葵にとってははなはだ迷惑だろうが。

昨年も向日葵を題材に撮影した。

昨年は時期を逸してしまい

仲間がすっかりその花を散らしている中で

ひとりだけ、今が自分の盛りとばかりに元気に咲いていた一本の向日葵。

周囲とのギャップに勝手にその孤独感や、もの悲しさを感じてしまい、

「よしよし、おじさんが遊んであげよう。」

そんな気持ちで長い時間を共に過ごした。

その時の気分がまだ残っていたのだろう。

今年はこんなに沢山の仲間に囲まれて幸せそうに揺れている向日葵を見て

こちらまで幸せな気分に浸った。

少々疲れ気味の身体をここまで引っ張ってきて良かった。

心からそう思った。



犬吠の駅周辺は、すっかりと向日葵に占領され

さながら、黄色いじゅうたんに敷き詰めているようだ。

これは素晴らしい。

当然銚子電鉄の列車を背景にと考え周囲を歩き回る。

しかし、線路を背景にすると、こちらを向いてくれている花は一つとして無い。

すなわち、すべての花が駅、線路の方向を向き、

列車や、駅を背景にする角度からはその後姿しか見ることが出来ない。

向日葵たちにそっぽを向かれたようだ。

これは嫌われたものだと、苦笑いするしかない。

向日葵たちはもしかしたら熱狂的な鉄道ファンなのだろうか。

そんなことを考えた。

その姿はまるで駅をステージとしてライブに熱狂する聴衆のように見える。

しかし、後姿ばかりでは、絵にはならない。

列車を背景にした撮影を諦めるしかない。

地球が丸く見える展望館に至る農道まで足を伸ばせば

もしかしたら、良い角度が見つかるのではないかとも考えたが

残念ながら、この酷暑でそこまで行く元気が無かった。

やむなく、犬吠駅のステージ(ホーム)に上がる。

そこから見る向日葵たちは、そのどれもが顔をほころばせ夏の日に揺れていた。

やっぱり君たちは銚電の熱狂的なファンなんだな。

ホームに列車が到着すると、そのファンたちの姿が一瞬列車の影に隠れる。

しかし、やがて再び列車が動き出すと、まるで舞台の幕を引いていくように

再び向日葵たちがその姿を現す。

一旦隠されたものが再びその姿を現す瞬間は息を呑むような美しさだった。

天照大御神の美しさとでもいうのだろうか。

さぁ、どうぞ、ご覧ください。

ステージはホームではなく、向日葵たちの方に逆転した。



君ヶ浜を出てすぐに見えてくる向日葵畑。

この畑の本業はキャベツ畑。

一年に二回収穫するキャベツ畑にその一回目と二回目の間、

向日葵を植えてくれているという。

銚子は海だけでなく陸にもその恵みを受けている。

いつぞや北斗星で札幌を訪れた時、

とあるスープカレー屋の壁を各地方の野菜を運んだ段ポールで飾っていた。

日本各地から取り寄せた野菜をふんだんに使っていますよということと思うが

その中に「灯台キャベツ」の文字と灯台マークを見つけた。

これは銚子のモノだ。

各地の野菜に囲まれて、さながら野菜甲子園の千葉県代表にも見え

ちょっと誇らしげな気分になった。

千葉県を代表するキャベツ畑に植えられた向日葵たち。

地主さんの好意でここは、畑の中からの撮影が可能だ。

そして、ここの向日葵は線路に背を向けてくれているので

犬吠の子たちと違い列車を背景に撮影することが出来る。
(向日葵の花の向きというのはどうやって決まるのだろう。)

犬吠の子たちに比べて、少し盛りを過ぎたかなと思われるが、

それでもまだ元気さを保ち、夏の青空に映えている。

ギリギリセーフというところか。

向日葵たちの後ろを2002号が通り過ぎる。

やや逆光の撮影。

これは、これでやむなし。

向日葵の向こう側、線路の向こう側に今、逆光のもととなっている日が落ちる。

その一日の終わりの斜めの光を受けた向日葵たちを撮影しよう。

ここは、斜光線の魔術を期待したわけだが、

しかし・・・。

犬吠での撮影を終えてこの場所に戻った時、その場所に向日葵たちの姿は無かった。

代わりにその場所にあったのは黒々とした土に重機が一台。

二回目のキャベツの作付けの為に向日葵たちは土に還ったのである。

しばし、呆然。

地主さんらしき人と駐在さんが

「今年の向日葵もおわりましたから、しばらくは静かになるでしょう」

と会話をしている。

向日葵にそそぐはずだった斜めの日の光が黒い土を照らしている。

やむを得ないことだと分かってはいるが、かなり寂しくなった。

数時間前に見たこの地の向日葵たちの姿が頭の中を回る。

向日葵が畑の養分となるかは知らないが

願わくば、これから植えられる灯台キャベツのための良い肥料となるように

そう願った。



来年また。

地主さんの言う通り今年は終わった。

斜光線の中の向日葵も来年までの宿題。

何らかの目標があった方が一年をまた過ごせるというものだ。

そう考えることとした。

しかし、残念ながらその頃には、このピンクの金太郎顔の2002列車はもう走っていないだろう。

100周年の席で銚子電鉄社長が来年3月をめどに

新しい車両の導入を発表したからである。

今銚電の話題はどこからどんな車両が導入されるかが焦点である。

新しい車両の導入とともに押し出されるのは

青とピンクが揃った金太郎顔のこの車両たちになるだろう。

移り行く銚電の車両たちの中でも好きな車両だっただけに残念だ。

向日葵畑の終焉を見ざるを得なかったこの日は

ある意味不運だったかに思うが、このピンク色の金太郎が

運用に入っていたことは、幸運だったと思う。

その最後の夏を向日葵の姿と共に撮影できた。

多くを望んではいけない。

その幸運を喜ぼう。

帰途で乗車した2002号の運転席に差し込む夏の終わりの日差しが

何故か妙に心に残った。



撮影日:2023年8月6日
撮影場所:銚子電鉄 犬吠駅周辺 君ヶ浜駅周辺