朗希がいく ー黒光の夜ー | てっちゃんのまったり通信

てっちゃんのまったり通信

yahooブログから引っ越してきました。引き続きよろしくおねがいします。



まだ、野球を見始めて間もない小学生の頃、「巨人の星」という漫画に夢中になった。

巨人ファンだった両親の影響を受け、その頃は野球=巨人。

ある時、私は両親に尋ねた。

「ねぇ、巨人とジャイアンツはどっちが強いの?」

「あのね、巨人とジャイアンツはいっしょなの」

当然こんな答えが返ってくる。

「だって、星飛雄馬が、長嶋と戦っているよ!」

「そんなことは、ありえない」

両親に強く否定された。

その時私の手にあった少年マガジンには、キャンプの紅白戦で

星飛雄馬が長嶋と対戦しているところが描かれていた。

今となっては笑い話にもならない話だ。

そしてこの漫画の中で一番気になったのが花形の所属する阪神のユニフォーム。

ご存知の通り縦じまなのだが、これが、漫画の中では後楽園球場でも

平気で縦じまユニフォームを着用している。

私は当然それを信じた。

両親に後楽園球場に連れて行ってもらった時に、一生懸命阪神のユニフォームを観察。

しかし、ビジターユニだったので当然縦じまはなかった。

「これは阪神ではない。花形もいない」

本気でそう思ったのを覚えている。

漫画ではない現実にはホームとビジターのユニフォームが存在することなど

その時の私にはまったく見当もつかなかった。

もし、あの頃の私が今回のブラックブラックナイトのような

ビジターとホームのユニフォームが入れ替わる企画があったら

容易に阪神の縦じまユニフォームを見て、

「漫画の通りだ!」

と叫ぶことが出来たかもしれない。

そのトラウマではないが、今はピンストライプユニがメインの千葉ロッテに傾倒している。

かなり前に松井のいたヤンキースが来日した時もワクワクして、試合そっちのけで

元祖ピンストライプのユニフォームを眺めた。



 

4月14日あの佐々木朗希が登板する。

こんな記事を読んで、チケットを入手しようとした。

やはり、今のマリーンズで見るべきものは佐々木朗希だろう。

金曜日とは言え平日だからと、鼻歌混じりにチケットページを見ると

空席がほとんどない。

私はおひとり様なのでかろうじてチケットを入手したが、フライデーナイトを

球場でデートなどといきなりしゃれ込んでも、それは無理な話だ。

しかし、平日の夜に何故にこんな状態になるのか、佐々木朗希が投げるにしてもだ。

この日はブラックブラックナイト。

ホームグラウンドであるが、ビジターユニを着用する日だ。

そして、先発は、ヤフー既報の通り、佐々木朗希。

それに対してバファローズの予告先発は山本由伸だという。

うーん、これは、確かにプレミアム。

皆さん情報をつかむのが異常に早い。

さらに拍車をかけたのが、WBCをともに戦った両雄が相まみえるのは初めてだということ。

まだ、あの興奮が冷めやらず、試合をしている選手を横目に栗山監督はテレビ局行脚が

いまだに続いている。そんな昨今。

この試合を、ヤフーでは、日本のみならず、世界中が注目している試合と煽っている。

ネット裏にはメジャーのスカウトも詰め掛けたらしい。

「あ~、あの試合ね。実は見に行ってたんすよ」

数年後にはそんなことを自慢できるようになるかもしれない。

その頃にはこの二人のマッチアップは海を渡らなければ見ることが出来なくなっているのだろう。



山本由伸のホームユニフォーム。

これが、実にさまになっている。

やっぱりホームユニは自軍の選手が映えるようにデザインされているのかもしれない。

マウンド上の彼の姿は、ここがどこであれ自分のホーム球場であるような佇まいがある。

本来は、大阪まで出向かなければならなければ見ることが出来ない姿。

これを生で見れただけでも球場に訪れた価値があった。

すり足のように足をほとんど上げないクィックのようなモーションから

投げ込む球は150キロ。

そして、変化球は大谷がトラウトに投げたあの一球のように大きく曲がる。

それが、いいコースにはまり、失投はほとんどない。

これは手が付けられない。

それを、表情をほとんど変えずに、使い古された表現であるが、精密機械のように淡々と投げる。

ついこの間までテレビの画面の向こうで投げていた彼を応援していたので、

つい、「うん、いいね」と感心してしまう。

これもいわゆるWBC効果と言えるのだろうか。

しかし、贔屓のチームが負けるのはやはり癪に障る。

何とか活路を、と思っている間に

彼は、打者を打ち取る職人のように、マウンドで仕事をして、当然とばかりにササッとベンチに帰る。

「プロの仕事はこんなもんです」

そう言っているようだ。

大人しいフォームからエグイ球を投げる職人。

流石である。



「無理だと思ってました。」

佐々木朗希がヒーローインタビューで茶谷の先制打に対して期待してなかったと言い

場内の笑いを取る。

笑いながらも「え?」と、思った。

去年までの彼のキャラはもっとシャイな感じだったはず。

決して図々しいというのではなく、受け答えに柔軟性が出て来たなぁという感じがした。

これも、もしかしたらWBCの効果なのだろうか。

大谷を見て、ダルビッシュを見て、野球人として抑えるべきツボを心得、立ち振る舞いに

メリハリが出てきたように思う。

その分余分な力が抜けて、精神的にも一つ階段を登ったかもしれない。

私は、カメラのファインダーを通した野球の見方しか出来ないが、

撮影した一枚一枚は、昨年よりも、彼の熱量が強く伝わってくるような感じがした。

今まで内に秘めていたかのように見えていた感情を

必要に応じて発露させる方法を学んだように思える。

その姿は、WBCの準々決勝、東京ドームのマウンドで大谷が

一球一球叫びながらの気迫の投球を思い起させた。

日本代表と言う立場が人を作る。

そんなことをふと思った。

「(山本さんを相手にしているのであれば)1点取られたら勝てないと思ったので

どうにかゼロに抑えるように考えて投げました。

後のこと考えずに最初に勢いつけて投げられたらなと思って・・・。後半ばてました(笑)。」

その言葉の通りのピッチング。

澤村賞を連続して受賞している山本由伸に対して今持っている力を出し尽くそうとする。

スポーツの原点とも言える清々しさがこの日の佐々木朗希には感じた。

年齢相応の若々しさを初めて彼から感じたような気がする。

後半バテましたと言う彼の言葉が、嬉しく聞こえた夜だった。



待ってましたの澤村。

登録名は沢村なのか澤村になるのかそれは知らない。

しかし、私は、彼は澤村という旧漢字がふさわしいと思う。

彼は、ユニフォームが白だろうがピンストライプだろうが、黒だろうが関係ない。

どんなユニフォームを着ても彼自身なのだ。

その存在感は群を抜いている。

小さくまとめようとしていた巨人時代が嘘のようだ。

その容姿は以前よりも更に磨きがかかり、一口で言えば山賊の棟梁のようだ。

メジャーのユニフォームもレッドソックスなどよりパイレーツの方が似合ったのではないかと思う。

とにかく個性の塊と言える。

昨シーズンが終わり、オフに入ると澤村がマリーンズへ復帰するという噂が飛び交い、

胸を躍らせてその報を待ったが、年を越してまた期待だけさせて空振りかと

半ばあきらめていた。

そんな時に飛び込んできた澤村の復帰報道。

絶対に写真に収める。

その夢がこの試合でかなった。

ファインダー越しに見る彼は、さらにうさん臭さが増し、まさに海千山千の猛者の風格。

この日先発の佐々木朗希や、山本の爽やかさとは対極。

この多様性がまた面白い。



くどいようだが、この日のマリーンズの相手は、あの山本由伸。

勝ちパターンの投手リレーでないと澤村の出番はない。

澤村の登場する展開に持ち込むのはかなり困難かと考えていた。

しかし

7回を終わって2-0のリード。

ここは当然澤村の登場しかないだろう。

当然シーズンインからここまでの流れで言うと当然そう考える。

ついに!

と思った瞬間に目に入ったリリーフカー。

続いて軽やかな谷保さんのコール。「マリーンズのピッチャーは益田~」

何事もメジャー流の澤村はリリーフカーを使用せず、

ブルペンから走って登場する。

あれだけ待った澤村の登場は目の前でお預け。

私は益田の好投も、その裏のマリーンズの攻撃もうわの空で

この試合のクローザーのコールを待った。

最後となるべき投手の登場曲が流れる。

最初の一音が鳴った瞬間、私の隣に座っていた御仁がイントロクイズよろしく

「澤村だ!」と叫んだ。

「マリーンズのピッチャーは沢村拓一~。背番号54~。」

大きな歓声。

アメリカの某野球映画を彷彿させるような登場。

あくまで自分の間合いでマウンドに向かう澤村。

そのしぐさの一つ一つが様になっている。

その後は、もうどんな球でどう彼が9回表を締めくくったかは分からない。

私はただひたすらにシャッターを切った。

「おかえりなさい。澤村」



この日は、いわゆる平安藤原と呼ばれるファン期待の

平沢、安田、藤原のトリオも揃ってスタメンにその名を連ねた。

ブラックブラックナイト。

佐々木朗希と山本由伸の投げ合い。

澤村拓一が締めくくる。

私が見たかったものすべてが凝縮された黒光りのする

素晴らしい試合だった。



観戦日:2023年4月14日
観戦地:ZOZOマリンスタジアム