西條奈加さんの「まるまるの毬」「亥子ころころ」を読む。
主人公、治兵衛と、娘のお永、孫のお君の三人が切り盛りする
菓子屋、南星屋の、心に染み入る連作もの。
菓子の名前が題になる、一話一話が
丁寧に描かれていると、感じ入る。
若いころ、諸国をめぐって、習い覚えた菓子の、
うまそうな描写もさることながら、
家族の細やかな情愛が、実に美味だ。
我慢強く、思慮深い、お永、
明るく頑張り屋のお君、そして、
三人を愛してやまない、治兵衛の弟、僧侶、石海。
そして、上様のご落胤という、治兵衛の出自が、
三人に影を落としていくのだが、
それも、物語の面白さを引き立てる。
一話一話は短いが、さまざまな騒動が起こり、
読み終えてみるとあっという間だった。
武士であった治兵衛が、菓子職人になった
いきさつが描かれた「南天月」では、
治兵衛に妬みを持っていた柑子屋が、
最後に吐き捨てるように言った
「あんたは、何一つ失くしてなぞいない」という言葉。
柑子屋は、治兵衛が羨ましくて、羨ましくて仕方ないのだろう。
治兵衛は、どんな困難が押し寄せようと、
決して、何も失わないだろう。
お永、お君、石海という家族がいる限り。