<シリーズ “わかりにくい線維筋痛症にどう取り組むか”>
【日本での患者の特徴】
日本の線維筋痛症患者の特徴としては、他国に比べて男性の割合が多い、重症化した例が多い、薬に頼る傾向がある、生活支援制度がない、生活指導・予防の観点が医療にはない、という点を前回挙げました。
重症化例が多いのは、早期発見できず、誤った治療が行われたためではないかと思うのです。医療にも制度にも理解されず、「気のせいでは」「たいしたことない」などと冷たくあしらわれ、なんの制度も受けられず、その結果周囲からも「たいしたことないんでしょ」「病名もつかないくらいだから病気ではないのでは」と見られていきます。
よくドクターショッピングを非難されますが、患者は好きでそうしているのではなく、診断治療できる医師に巡り合えないために探し続けるしかないのです。医療費も交通費もかかり、気持ちもすり減ってますます悪化します。患者が遠くまで行かずとも、適切な医療を受けられればどんなに良いでしょう。
発症初期に家庭医が運動を指導しているアメリカ、数か月単位での休職を含む温泉療法を処方するドイツ、患者団体などが主催するコミュニティーへの参加を提案するコペンハーゲンなど、参考になることは沢山あります。
発症初期に適切な対応がなされないために悪化しているケースは沢山ありました。
日本では重症例が数パーセントあることは事実で、研究班でもなぜなのか解明したいと話題になっていました。
もともと日本の医師数は不足しています。専門医は専門しか診ない、人間のパーツだけを見て全体を見ないという傾向もあります。高度に特化した専門医は重要ですが、データに現れない不調や痛みを全人的に理解する医療環境が少ないのです。
家庭医・かかりつけ医は普及せず、仮にいたとしても線維筋痛症などを知る機会はあまりなく、医師同士で紹介先を見つける枠組みもできていないのです。
もちろんこの25年間で多くのことが実施されました。できることはかなりやってくださった医療機関も多くありました。しかし残念ながらコロナ禍に遭遇して閉院したり、当時のメンバーだった医師も退職するケースが多くなり、医療機関はむしろ厳しくなってきているのです。
【患者を悩ませているもの】
そこで根源的な問いを考えることになります。痛みは無くさなければならないのか。痛みを抱えて我慢しなければならないのか。痛みさえなければうまくいくのか。どうして痛くなるのか。痛みの意味は。痛みとは何なのか。何もできない人間は生きている価値がないのか。人間の尊厳は、自分らしさはどこにあるのか。
もちろん痛みを何とか軽減することが患者さんの一番の願いです。軽減できれば少し行動できるようになります。
多くの患者さんの話を聞きながら、社会から離れてしまい、自信を失っていることは深刻な課題であり、痛み以外で患者さんを悩ませていることにもっと注目しなければならないと思いました。
【線維筋痛症の症状の多様さ】
線維筋痛症の症状とは、全身の激しい痛みです。痛み以外の症状は、疲労感、倦怠感、睡眠障害、しびれ、こわばり、抑うつ状態、乾燥症状、腹部症状、温度によるアレルギー症状、羞明(しゅうめい、まぶしいこと)などです。併存疾患(どちらの病気もあるということ)としては、慢性疲労症候群、自己免疫疾患などがあります。
様々な症状の中で特に多いものを、研究班の2004年の調査を元に挙げてみます。
全身痛、疲労、関節痛、睡眠障害、頭痛、しびれ、こわばり、不安、抑うつ、乾燥症状、便通異常。これらは患者の9割から4割の人が感じていることになります。
症状は110もあると言われていて、脳や神経、甲状腺機能低下、低血糖、低血圧、低体温、副腎や膵臓関連、NK細胞の関与などが考えられています。
ですが症状の多様性に惑わされると本質を見逃し、多剤併用になるリスクがあります。医師患者双方に、強い痛み止めに頼る傾向が生まれやすいのです。根本治療をいかにして目指すかが問題になります。
線維筋痛症はすべての感覚が過敏になります。音、光、風、低気圧、温度、湿度、それから心の痛みもです。誰かの傷つける言葉にも敏感になります。
ですから、日常生活は痛みに満ちており危険がいっぱいです。日本語には多くの痛みに関係する言葉があります。これらに対して患者は非常に敏感になっていると思われます。
【鑑別診断がとても重要】
線維筋痛症に似た症状では、自己免疫疾患、内分泌疾患、光過敏症、化学物質過敏症、リウマチ性疾患、機能性身体症候群、うつなどが考えられます。
特に注意してほしいのは、線維筋痛症に注目しすぎると他の病気を見逃すリスクもあるということです。実際に、癌で死亡したり、他の疾患の発見が遅れた例があります。
【検査方法】
診断のためには、fMRI (磁気共鳴機能画像法、機能的MRIともいう)、脳血流検査(前頭葉と海馬の酸素量)、FSS-31 (身体機能障害についての問診票)、ロンドン問診票、圧痛点、等が用いられます。
除外診断のためには、x線検査、CRP(炎症反応)検査。
ほかにも、暗視野顕微鏡、血糖持続自動測定、ヘッドアップティルト試験(血行動態)、ペイン・ビジョンなどを定期的に使用して、治療経過を判断します。
このペイン・ビジョンによって調査したところでは、線維筋痛症は相当痛いということがわかります。
関節リウマチと線維筋痛症を比べたもので、ペイン・ビジョンの数値とVAS(ビジュアルアナログスケール)を比較したものを見ますと、線維筋痛症は痛みがかなり強いのに、少し弱めに申告するという現象が見られます。線維筋痛症患者は「痛がり屋だ」「大げさに言う」などと言われることが多いですが、それは間違っていることを示しています。常に痛いことから、「これはいつも通り」と判断したり、強めに申告することを遠慮する患者の心理があるかもしれません。
定期的に測定することで、自分では気づかない変化や傾向がわかり、治療上の目安になります。
SF-31では、体の各部の痛みをチェックして記入します。同時に疲労感、起床時不快感、認知症状、その他の自覚症状を記録し数値化して用います。
これまでに、患者の血液を調べて特定のタンパクが認められたことから、線維筋痛症の診断マーカーになるかもしれないと期待されたことや、fMRIを用いた脳の研究で、脳の部位と痛みを関連付ける研究など、多くの研究がなされてきました。しかし、まだ完全に実証できる段階ではありませんでした。
痛みや線維筋痛症の論文は急速に増えています。日本では研究費確保が難しい課題もありますが、研究が行われていることは心強いです。
そして一番大事な点は、科学的な理論や選択肢が増えることは重要ですが、何をどう治すかを決めるのは患者ということです。最先端の技術だけが治療ではありません。線維筋痛症のように生活スタイルやストレスや心理状態が大きくかかわっている疾患は、患者の、人生をどうするかという問いに直結するものだと思います。
(続く)
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