いつも目立たなくて、自己主張もできない。

オシャレとも縁遠くて、仲間内でもまったく目立たない存在だったあのこ。


親に勧められた年上の人と、

一番先に結婚して、白いドレスをまとって、薄く微笑んでた。


子供もできて、家も買って・・・

家族そろった年賀状の写真は、彼女だけ昔と同じで控え目な笑顔だった。


その彼女が・・・


子供も、夫も、薔薇の垣根の素敵な家も捨てて、

パート先で知り合った男と消えてしまった。


何年か経って・・・

私のもとに、遠い海辺の町の消印で、葉書が送られてきた。


彼女は、年上の、ちょっとさえない男の人の隣で、

私が見たこともないような圧倒的な笑顔で笑っていた。


昔ながらの丸いかわいい文字の言葉を添えて。


「やっと、自分の居場所を見つけました」



・・・幸せなんだね。


初めて彼女をうらやましい、と思った。




ペタしてね

昔好きだった歌のフレーズが耳を離れない。


 手をつなぐほど若くないから
 あなたのシャツのひじのあたりを
 つまんで歩いていたの


そう、彼と歩くとき、

若い恋人同志のように指をしっかり絡ませて歩くのがちょっと恥ずかしい。


歌のようにシャツの袖をつまむこともできず、

ちょっと離れて歩いていると、しっかりと肩を抱いて引き寄せてくれる。


その瞬間が幸せ。



いつか、彼と離れてひとりの時間を持て余す時が来たら、

真っ先に思い出すのはその瞬間のことかもしれない。




ペタしてね


河原のカフェに向かって歩く途中、初対面にもかかわらず、

私たちはとても打ち解けて話せていた。

2ヶ月間、ほぼ毎日交わしていたメールで、話題には事欠かなかったし、

人見知りする私を包むような優しいまなざしの彼の傍らにいることが心地よかったから。


まだ完全に暮れ落ちない、夏の初めの夕暮れ。

河原へ続く道が、ずっと続けばいいのに、と思った。


夜も夏も彼もみんな若かった。

私だけ若くなかったけど、芽生え始めた想いは青く、若かった。

忘れかけていた気持ちを 過去の淡い恋の記憶を 思い出した。


・・・カフェでの会話はほとんど覚えていない。


ただ、彼の一言だけは強烈に今も胸に残ってる。


「幸せそうに見えない」


(それは、あなたも同じだよ。)


私たち、誰よりも上手に「日常」を生きているつもりだった。

仕事も順調で、友人もたくさんいて。


だけど、本当はそうじゃなかった。


誰かと 深く つながりたかった。

きつい結び目でキリキリと 二度とほどけないくらい 結びつきたかった。

お互いの配偶者とはもう、ほどけてしまっていたから。


そんなことを考えていたら、強くないのに口にしたワインが

いつも以上の効き目を発揮した。


結局、お店が閉まるぎりぎりの時間まで、片隅のソファに倒れこんでしまった。


その間、彼は静かに隣りにいてくれた。

優しく 繰り返し 髪の毛をなでながら。



カフェから駅へ向かう道。

深まる夜の静けさの中、私たちは無言で歩いていた。


つないだ彼の手はとても冷たくて、

だからこの手を離しちゃいけない、って思った。


それが、始まりの夜だった。


ペタしてね