河原のカフェに向かって歩く途中、初対面にもかかわらず、
私たちはとても打ち解けて話せていた。
2ヶ月間、ほぼ毎日交わしていたメールで、話題には事欠かなかったし、
人見知りする私を包むような優しいまなざしの彼の傍らにいることが心地よかったから。
まだ完全に暮れ落ちない、夏の初めの夕暮れ。
河原へ続く道が、ずっと続けばいいのに、と思った。
夜も夏も彼もみんな若かった。
私だけ若くなかったけど、芽生え始めた想いは青く、若かった。
忘れかけていた気持ちを 過去の淡い恋の記憶を 思い出した。
・・・カフェでの会話はほとんど覚えていない。
ただ、彼の一言だけは強烈に今も胸に残ってる。
「幸せそうに見えない」
(それは、あなたも同じだよ。)
私たち、誰よりも上手に「日常」を生きているつもりだった。
仕事も順調で、友人もたくさんいて。
だけど、本当はそうじゃなかった。
誰かと 深く つながりたかった。
きつい結び目でキリキリと 二度とほどけないくらい 結びつきたかった。
お互いの配偶者とはもう、ほどけてしまっていたから。
そんなことを考えていたら、強くないのに口にしたワインが
いつも以上の効き目を発揮した。
結局、お店が閉まるぎりぎりの時間まで、片隅のソファに倒れこんでしまった。
その間、彼は静かに隣りにいてくれた。
優しく 繰り返し 髪の毛をなでながら。
カフェから駅へ向かう道。
深まる夜の静けさの中、私たちは無言で歩いていた。
つないだ彼の手はとても冷たくて、
だからこの手を離しちゃいけない、って思った。
それが、始まりの夜だった。
