TATSUMI マンガに革命を起こした男
(TATSUMI)
2011年
監督:エリック・クー
概要
大人の読者に向けた劇画というジャンルを確立し、日本の漫画界を変革した辰巳ヨシヒロのアニメドキュメンタリー。終戦直後の貧しい時代に若き日を過ごした彼が、漫画家から劇画家となる姿を映し出す。監督は、シンガポール映画界をけん引する気鋭として注目を浴びている『マカブル 永遠の血族』などのエリック・クー。俳優業以外でも精力的な活動を行っている別所哲也が、1人6役で各キャラクターのボイスキャストを務めている。現代漫画史を俯瞰(ふかん)しながら戦後日本の歩みも浮かび上がらせる独特の視点にも注目。(シネマトゥデイより)
感想
最近はずっと「ゲゲゲの女房」を見ていた。不必要に悪者を作るクセのある脚本は気になったけれど、それ以外はなかなか良かった。時代の空気とそこで生きた実感が伝わってくる。作家自身、あるいは作家周辺の人による自伝的作品は、その作家の他の作品に深みを与える。
自伝的漫画家マンガを3つ挙げろと言われたら、ぼくは藤子不二雄Aさんの『まんが道』、島本和彦さんの『アオイホノオ』、そして辰巳ヨシヒロさんの『劇画漂流』を挙げる(水木さんの『水木しげる伝』も捨てがたいけれど…あ、東村アキコさんの『かくかくしかじか』も…←)
辰巳さんは作品そのものは一般にあまり知られていないものの、「劇画」の創立者のひとりとして、日本のマンガ表現に決定的な影響を与えた人だ。
この映画は、辰巳さんの短編5つをアニメーション化し、その幕間を『劇画漂流』で結び付けている。それもただアニメーション化したわけじゃ…いやむしろマンガそのものをアニメーション化していると言った方が良いか。白土さんのマンガを撮影して作った大島渚監督の『忍者武芸帳』(1967)のように、辰巳さんのマンガをスキャナで取り込んでアニメーションにしている。
大島さんの『忍者武芸帳』は実験作みたいな色合いが強くて、商業作品としては正直見られたものじゃなかった。でもこれは違う。単にマンガをそのまま見せるのではなく、コンピュター上でキャラクターと背景をレイヤー分けして動かしている。マンガとアニメの中間というかな…デジタルのこういう使い方はなかなか面白い。
短編の合間を『劇画漂流』で縫っていく趣向もうまくいっていると思う。辰巳さんの短編は「珠玉」と言っても良い。でもあまりに救いがなくて、見ている内に辛い気分になってくる。自伝である『劇画漂流』を挟むことで、一歩引いたところからそれらの短編を眺めることが出来る。こういう背景でこれが作られたのだなあ…と思うと、理解もできる。
もうひとつ良いと思うのは、辰巳さん本人が『劇画漂流』部分のナレーションをしているところ。やっぱり、本人の声ってのは…なんか違うんだよね。決して上手くはないのだけれど、そこで描かれている人生を実際に生きてきた重みがあるんだ。
これはなかなか良かった。なにか心を震わすものがある。
☆☆☆☆★(4.5)