「推しが武道館いってくれたら死ぬ」って話ですよ。
先月スタートしたkindleの月額サービスunlimited。早速、登録してみたのです。色々と読んでみたなかで、とりわけ気に入ったのが平尾アウリさんの『推しが武道館いってくれたら死ぬ』
…もうタイトルからして素晴らしい!!!←
ChamJamという岡山県の架空アイドル・グループと、そのヲタたちを描いた漫画です。著者の平尾さんは、この漫画の舞台になっている岡山出身だそうで、その描写も地に足が着いているというか…説得力があります。だからなんか、こういう人たちが本当にそこに居る感じがします。
主人公の女ヲタえりぴよは、ChamJamの人気最下位メンバーであるまいなを推しています。ヲタ仲間であるくまささん(センターのれお推し)とえりぴよ、それからガチ恋系の基さん(空音推し)の3人が繰り広げるヲタ・トークは、「ヲタあるある」(と言っても、結構ぶっ飛んでるんですが)に満ちていて、クスクスできます。基本、コメディです。
ただ、この漫画の真髄はむしろ違うところにあって。これ、じつは「ラブコメ」なのです。まいなもえりぴよのことを好きなんですな。
ラブコメの基本って、「すれ違い」にあるわけじゃないですか。お互い想っているのに、些細な誤解からそのことに気付かない…そんなじれったさ。それがラブコメの王道です。ただ、その「すれ違い」も、時としてわざとらしいものに感じられたりします。「それはさすがに気付くだろ!」とかね。
そこへ行くと、この『推しが武道館いってくれたら死ぬ』では、わざとらしさがほとんどありません。アイドルとヲタという関係なので、そもそも直接的な接点がない。握手会なんて話せる時間も限られていますし、すれ違って当たり前。内気でシャイなまいなは気持ちを表に出せませんし、なので、えりぴよも「塩られてる…」と誤解しています。
加えて、お互い「アイドルとヲタ」という関係を大事にします。「友達の関係を壊したくない」みたいなパターンがあるでしょう。あれの変形。
1巻のラストに、こんなシーンがあります。あるイベントの帰り道、電車の車内で鉢合わせしてしまったえりぴよとまいな(普通に電車に乗っている辺りがリアル)。ここで、新たな展開が! と思いきや、気を遣って「ごめん…車両…かえるから…」と、去っていくえりぴよ。さすが、ヲタの鏡!(笑)
その去り際、「いつも…ありがとうございます…」と、か細い声で精一杯の想いを伝えるまいな。もう…キュンキュンですなあ(←) 二人の関係が「アイドルとヲタ」であることによって、「距離感」と「すれ違い」、そして共鳴する瞬間が自然に、説得力をもって描かれています。
これが男ヲタであれば、なんだか生々しい(いやらしい)感じになったでしょうが(実際、これまで色々ありましたしね!←)、女ヲタであることによって、そうした生々しさは脱臭されています。
ちとファンタジーの側面もあって、メンバーの男関係が描かれることはありません。むしろ、メンバー同士の淡~い関係が群像劇の形で挟み込まれてきます。もちろん、「百合」にもピンキリあるでしょうが、これはもうホントに淡~い感じなので生々しさは全然ありません。ピュアピュアです。
背景となる岡山の描写や「ヲタあるある」によるリアリティと、こうしたファンタジー要素。そのバランスがとても心地が良いんです。生々しい現実は心に痛い、かと言って、ただのファンタジーだと、自分とはまるで無関係の世界に思えてしまって白けてしまう。この漫画は、そういう点において理想的なバランスをもっています。
なにより、地下アイドルという文化に対する「愛」がこの漫画からは感じられるんですな…なかなかの掘り出し物でした<(__)>