幕が上がる
2015年日本、119分
監督:本広克行
主演:ももいろクローバーZ
概要
劇作家・平田オリザが2012年に発表した小説を、人気アイドルグループ「ももいろクローバーZ」主演で映画化した青春ドラマ。地方都市の高校弱小演劇部の女子生徒たちが、元学生演劇の女王だった新任教師の赴任をきっかけに全国大会を目指し奮闘するさまを描く。メガホンを取るのは、『踊る大捜査線』シリーズなどの本広克行監督。演劇部を指導する新任教師に『小さいおうち』などの黒木華がふんするほか、『薔薇色のブー子』などのムロツヨシと志賀廣太郎ら多彩な俳優陣が共演。(シネマトゥデイより)
感想
じつは、ボクは「ももクロ」をほとんど知らない。なんでか…って聞かれても困るのだけれど、ボクのドルヲタ人生は48以前と48以後とで綺麗に分かれていて、48以前はあらゆるアイドルや若手女優のことを知っていたけれど、48以後はそれで満足しちゃって他のことを見ている余裕も必要もなかった。
気が付けば、「ももクロ」は48のライバル的な扱いになっていて、まとめのまとめサイトで48関連の記事があって覗きにいくと、なぜかももクロのまとめサイトだったりすることが以前は良くあった。その差し向けられた敵意に反発を覚えたりもした。
だから、本広監督の新作が「ももクロ」だって分かった時も、見に行くつもりはなかった。それが見に行く気になったのも、別に大した理由じゃない。月曜日は映画を見に行く日で、たまたま近所の映画館で上映していたんだ。
1.
始まった瞬間に分かる。これはものすごくしっかりとした「映画」だ。ただアイドルのPVとして撮っているものじゃない。撮影から何から本格的過ぎて、ちと苦笑してしまうくらい。それくらい、周りをカッチリと固めてある。
でも、だからこそ演技が気になる。演劇部員が7人くらいいるんだけれど、「ももクロ」って5人だっけ? その内の誰が「ももクロ」かボクには分からない。ただ、何人かそうだろうな…と思える子がいる。
序盤、主役の子がひとりで駆け回るシーンが多いのだけれど、ちと力不足に感じる。なんと言うか…あの子はホントはもっと明るく元気なキャラクターじゃないのかな…たぶん。一昨年の授業で「赤の子」のことをレポートに書いてきた子がいたから何となく知っている。
だから、序盤の陰気なお芝居には、翼をもがれた小鳥のような印象を受けた。役柄と本人とが不調和を起こしている、そんな印象。それはショートカットの子からも受けた。天性のセンスを持った演劇部のプリンセス…って、言葉では言っているけれど…みたいな。
だからボクは「演技はいまいち」ってレビューを書いて「でもボクは48の演技だって大体ボロカスに書くんだ」とか言い訳しようなんて考えていた。「そう言えば、本広さんって女の子撮るの苦手なんだよな…」とか。
演技というと、すぐ何かになりきろうとする人がいる。でもそれって不可能なんだ。自分自身を完全に捨て去ることなんて出来やしない。だから、自分と役柄をいかにすり合わせていくかが大事なんだ。
…ってのは、ボクが良く言うことだけれど、これが誰の影響を受けているかと言えば…
「自分のコンテクストを完全に離れて、他者になりきることなど不可能である。俳優は、少しずつ自分のコンテクストを押し広げ、その役柄に近付いていくのだ」「演ずるということは、つまるところ、自分のコンテクストと、演ずべき対象のコンテクストを擦り合わせることなのだ」平田オリザ『演劇入門』
そう…平田オリザさんの影響を受けているんだ。そして、この映画は平田さん原作の映画なわけで…ボクは、その時点で気づくべきだったんだ。
2.
5人の中で段々と調和していく役柄と本人(本人たちがどういう子か知らなくても、それはなんとなく分かる。あ…調和してきたって)。それはまた、5人が調和していく物語上の流れと響きあっている。そう…この時点で、ボクはもう誰が「ももクロ」か気付いている。
そこに素晴らしい黒木華さんがしっかりと添え木を当てている。そしていつしか5人は、その添え木がなくても羽ばたけるようになっていく。これはね…物語と演出とが完璧に絡み合っている映画なんだ。
そして、もうひとり名前を挙げるべきなのはムロくん。最近どこでも見かける彼だけれど、彼なんかは平田さんが言うところの、「非常に不思議なコンテクストを持った俳優」(=どんな役をやらせても自分自身になってしまうような強烈な個性を持っている俳優)だろう。
彼がまた凄いんだ。映画として流れをキッチリと固めている中で、ムロくんが一言発するだけで、その流れがすべて壊れてしまう。これもまた意図的な演出だと思う。偶発的というか…演劇的な要素を入れるというかね。
5人+黒木さん&ムロくん。基本的にこの7人で回している(そこに志賀さんが彩りを添えていく)から、それもどこか演劇的だ。誰よりも演劇というものを深く理解している平田さんの原作だし、演劇大好きな本広さんが監督だから、細かい描写なんかにも説得力がある。
それにね…なんと言うか…これはもう…「こうでしかあり得ない」って物語だし、作品なんだ。これはボクの最高の褒め言葉だと受け取ってもらっていい。
映像的にも、もちろん安定しているし、なによりロケーションが素晴らしい。夜の駅での最初のカットなんかは「なんだその画は!」って叫びたくなってしまった。「なんだその画は!」と。「完璧だろ!」と。
3.
アイドル生命は限りあるもの。こういう作品に参加できる…ということは、誰もが叶えられることじゃなくて、それはホントに何より羨ましいことで…。
アイドル生命は限りあるものかも知れないけれど、作品の生命を生きるということ…それはきっと永遠のもので。
これは「ももクロ」のPV映画じゃないし、「ももクロ」というアイドルグループがこれからどうなっていくか…それはボクには分からない。でも、この作品はきっと残る。ずっとずっと残っていく。
なんで48でこれが出来なかったんだって。悲しくて悲しくて泣いていた。泣かせに来ている映画じゃないのに、悲しくて悲しくて悲しくて悲しくて悔しくて涙が止まらなかった。悔しくて悔しくて悔しくて、戯曲を書きたくなった。
これは特別な作品。もちろん、アイドル好きじゃない人でも感じることは多々あるだろう。でも、アイドルを愛する人ならば、「ももクロ」がどうとかそういうわだかまりは捨てて見に行って、そして悔し涙を流せ。
これは特別な作品だ。
☆☆☆☆☆(5.0)
物語☆☆☆☆☆
配役☆☆☆☆
演出☆☆☆☆★
映像☆☆☆☆★
音楽☆☆☆☆★