『42 ~世界を変えた男~』
42
2013年アメリカ、128分。
監督:ブライアン・ヘルゲランド
主演:チャドウィック・ボーズマン
概要
黒人初のメジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソンの伝記ドラマ。白人の世界だったメジャーリーグに飛び込み、偏見や差別に屈することなく奮闘した彼の姿を描く。監督は、『L.A.コンフィデンシャル』の脚本家としても知られるブライアン・ヘルゲランド。テレビドラマ「FRINGE/フリンジ」などのチャドウィック・ボーズマンが、ジャッキーを快演。親身になって彼を支えたドジャースの重役ブランチ・リッキーを、名優ハリソン・フォードが徹底した人物リサーチと特殊メイクを施して演じ切っている。(シネマトゥデイより)
感想
(注:若干のネタバレあり…実話なんで観賞にはさほど影響はないかもですが)
1.
ワシントンが奴隷制を容認していたというのは有名な話。その時代に生きていた人間にとって、その時代の価値観から外れて考えるのが、いかに難しいことなのか…ということを物語るエピソードだ。
そして、ときに時代は、おぞましい価値観を社会に根付かせることがある。ナチス時代のドイツのように、あるいは奴隷制時代の欧米のようにね。移り変わる時代の価値観の中で、いかに「善き人」であることが出来るのか…それは人類にとって永遠のテーマなのかも知れない。
それでも、少しづつでも時代は良い方向に進んでいる…のかな。
いまでも人種差別は続いている。あたかもファッションのように差別を行う。どんな時代にも一定数そんなやつらはいて、結局なにも変わっていないんじゃないか。いやむしろ、我が国のサッカー場ではなおさら酷くなっているのじゃないか…。そんなことを考えたりもする。
2.(若干のネタバレあり)
この映画を見ると、そんなことを考えさせられる。これ、映画のレビューになってないんだけれど、仕方がないよね。
彼に否定的だった人たちが、彼に浴びせられるヒドイ野次を見て、心を痛める場面がある。それがいかに醜い行為かってのを、他人の姿でまざまざと見せ付けられるわけだ。
「真善美」とはあまりにも古臭い概念だけれど、善と美とが通じるものならば、美しい行為というものを理解できれば、善き行為というのもまた分かるのかな…。それはまた、『レ・ミゼラブル』が表していたものでもあって。
う~ん…そもそも、なにかそうした普遍的なものを想定すること自体にどこか無理があるのかも知れなくて…。やっぱり、ボクらはどうしても、その場その場、その時その時の状況で判断するしかないわけで。いまでもボクらは生き物を食って生きているわけで。
それでも…なにかそうした「善きこと」があるというのをさ…心のどこかで持ち続けていたいというか…(人によっては、それは「信仰」という形になるのだろうけれど、ボクは信仰を持ってないから悩みもするわけで)。
って、あまりに本題から離れてしまった。
3.(若干のネタバレあり)
この映画で印象的なのは、ロッカールームからグラウンドへと到る薄暗い廊下。こう…グラウンドから眩しい光がパーッと射していて、これまでの苦難の歴史から、これから明るい未来が待っているということを予感させる。
あの画ひとつで、この映画で言いたいことが手に取るように分かる。ああいう画を撮れる…というのは、映画作りにとって、とても重要なことだとボクは思う。映画ってのは、なにより画なんだ、ってことを思い出させてくれる。
また、なにげなく挿入される時代性を感じさせるものたちが、この映画のリアリティを高め、かつ良いアクセントになっている。さりげないけれど、美術がとても良い仕事をしているんだろう。
さらに物語という点で、この映画にリアリティがあるのは、こう…色々と苦難を乗り越えて、それで最後は大円団…って形に必ずしもなっていないところ。最後の段階でも棘みたいなものが残っている。その辺がグサッとくるわけで。
もちろん、これは(実話に基づいて)1940~1950年代を描いた映画であって、アメリカで公民権法が制定されるのは1964年のこと。だから、まだまだ(公民権法が制定されたあとでさえ)苦難は続く…ってことを暗示しているのだろうけれどね。
だから、一方でとてもドラマティックに作っているんだけれど、その一方で完全にはドラマに回収していない。現実に対して開かれたものとして作っている。そうしたところが、ボクに「あ…この映画はウソをついてないな…」ということを感じさせた。
4.(ネタバレあり)
クライマックス近く、ショートのピー・ウィー・リースと肩を組む場面は、取り立てて特別な演出をしているわけではないのに泣かせる。美しい場面だった。
☆☆☆☆★(4.5)