―夢日記―
夢を見た。
ボクは国を失った領主。
いくつかの風景を横切っていく。いつもの公園。サッカーの試合。ボクが引っ張ってきたやつが圧倒的なプレーを見せる。かなり独善的。ボクは彼に伝える。
「あの頃から君を連れてこようとしていたんだ」
あの頃というのは、彼の国とわが国が冷戦状態にあった頃のこと。彼は信じない。
「ウソだね」
「いや、本当だって。当時の新聞を見れば分かるよ」
「本当に…?」
まだ半信半疑のような顔。そういや、あの頃ってたしか1950年代のはず…彼はいったい、いまいくつなんだ…90くらい? あれ…なんかおかしいな…。
意識が混濁する。
目が覚めると、周囲に人は消えている。そうか、ボクは夢を見ていたのだな…。
ボクには行かなければならないところがある。身体に力が入らない。這うようにして進む…川の手前で力尽きる。
目を瞑っていると、ふと唇を濡らすものがある。その水一滴でボクは息を吹き返す。かすかに目を開けると、幼子をおぶったひとりの少女が、そそくさと立ち去っていくのが見える。
そうだ、あの子は…かつてのわが国の領民の…生き残り。故郷を失い、両親は戦で亡くなっているのに、そんな目に合わせたボクにまだ情けをかけてくれるか…。
ボクには行かなければならないところがある。なんとか立ち上がって、ヨロヨロと橋を渡る。その先にあの館がある。扉の前で再び力尽き…館の住人に担ぎ込まれる。
塔のいちばん上にある領主の部屋。そのベッドにボクは寝かされている。医者を呼ぶ声。その傍らで、黒髪の綺麗な女が話している。
毎夜のように見る怖く悲しい夢、その夢にボクが出てくると言う。詳しくは覚えていないけれど、その絶望的な最期の瞬間、ボクに抱いている感情は「ありがとう」なんだってこと。
ボクは覚えている。ボクは守ろうとして、守れなかったんだ…。ほほを一粒の涙が流れる。
意識が遠のいていく。
目が覚めると、周囲には誰もいない。身体が軽くなっている。ボクは誰も居ない館のなかを歩き回る。ふとカレンダーを見ると、その数字が反転している。
ボクはネクロマンサー。国を失った領主。