『劇場版 STEINS;GATE シュタインズ・ゲート 負荷領域のデジャヴ』
2013年日本、89分
監督:若林漢二
主演:宮野真守
概要
Xbox 360用ゲームとして登場し、多彩なメディアミックスも展開してきた人気作を映像化した近未来SFアニメの劇場版。テレビアニメで監督を務めた佐藤卓哉と浜崎博嗣が総監督として参加するなどスタッフが再び集結し、テレビアニメ版のその後を展開。自らを狂気のマッドサイエンティストと呼ぶ主人公の大学生の発見により、世界規模の事件に巻き込まれる主人公と仲間たちの姿を描く。タイムパラドックスの悲劇と仲間たちの絆をテーマに、完全新作として作られたストーリーの行く末は必見。(Yahoo!映画より)
Steins;Gate…
『Steins;Gate』のテレビシリーズは忘れがたい作品だった。正直、ゲームのアニメ化作品ってのに良いイメージは無い。大抵の場合、いかにも幼稚なストーリーで、底の浅さを感じてしまうからだ。だけど、この『Steins;Gate』は出色だった。完全に中二病なんだけど、それを徹底している。なんであれ、ひとつのものを純粋に突き詰めていけば、それだけでなにか価値のあるものが出来てしまう。そんなことを感じさせた。
「アニメーション」としては、お世辞にも質が高いとは言えなかった。妙に白く飛んだ背景は、不思議な浮遊感を感じさせて、どこか非日常的な世界観を上手く表していたけれど、それだけ見て楽しめるような、そんなものではなかった。それにキャラクターデザインは魅力的だったけれど、動きは紙芝居みたいで、動きを楽しむようなアニメでもなかった。
だけど、この物語には力があった。「ピュアネス」と「謎解き」、そんな言葉は東野圭吾を彷彿とさせるけれど、『Steins;Gate』はもっと粗野で未熟で品が無くて、そしてどうしようもなく面白かった。くだらないギャグ、中二病丸出しの設定。SFとしては矛盾しているようなところもあるんだけど、そんなことを気にしている間もないほどのテンションの高さ。もとがゲームであるために、「イベント」を順次こなしていくという作り方になっていて、それがかえって凄まじいリズム感を生んでいた。
文化が成熟を迎えて、洗練されてはいても力のない作品が多く生まれるなか、ときに周辺領域から、こうした、粗雑だけど圧倒的なパワーを持った作品が生まれてくることがある。『Steins;Gate』はまさにそれだった。ボクは(どっかで書いたように)星雲賞のメディア部門を与えるべきだとさえ思ったし、今でもこれは2010年代を代表するアニメシリーズのひとつだと思っている。
感想
さて、褒めそやしたところで劇場版…一見、雰囲気は残しているように見える。映像の外見は同じだし、キャストも同じだし、テレビシリーズに言及するようなシーンも数多く存在する。
でも、違う。これは別物だ。なにが違うか。まずは、これがおそらく劇場用に書き下ろされたシナリオのため、逆にテレビシリーズにあったリズムを失っているということ。映画的な「間」を導入しようとしているのかも知れないけれど、その「間」は『Steins;Gate』の生命線であったリズムとテンションを失わせてしまっている。
その上、もとが未熟なだけに映画にも成りきれていない。「間」があることで、キャラクターの演技のヘタクソさ(声優じゃなくて、アニメーターの演技)が際立ってしまう。
それから、もうひとつの問題は、主人公がキョウマではなく、クリスになっているということ。これは単に視点変更の問題に過ぎないように思えるかも知れない。でも、違う。もとがゲームであったため、『Steins;Gate』は主人公のキョウマが動くことで人間関係が築かれていた。基本的にラボメンはキョウマが集めてきた者たちだ。つまり、キョウマがこの世界の人間関係の結節点になっている。
クリスと他のラボメンとの人間関係は、基本的にキョウマを介してのものだったから、もともと薄くしか描かれていない。もとがゲームという特性上、そうした関係性はすべて、キョウマの目から見えたものだった。キョウマを抜きにした直接的な関係は描きようがなかった。だから、クリスを主人公にしてしまうと、そうしたもともとの構造上、キョウマとクリスという2人の世界だけが前景化してきてしまう。そして、このことによって、世界全体が閉じた世界に見えてきてしまうんだ。
これはまた、もうひとつ別の問題を呼び込む。それは、まゆしぃの問題だ。『Steins;Gate』においてもっとも重要なのはおそらく、まゆしぃなんだろうとボクは思う。ゲームのトゥルーエンドであるところのテレビシリーズのストーリーでは、キョウマはまゆしぃと結ばれないどころか、明らかにクリスに想いを寄せているのに、それでも幼馴染のまゆしぃのために必死で走り続ける。まゆしぃを助けたければクリスを見捨てねばならず、クリスを助けたければ、まゆしぃを見捨てなければならない。それでも、なんとかその先の道を探し続ける。
その必死さ、その切なさ、その姿の純粋さ。あれは…あれこそが『Steins;Gate』の陰影を規定していたものだとボクは思う。そして、そこにまゆしぃのあの健気なキャラが色を添えていた(花澤香菜の演技はいつだってボクを虜にする)。だけどだけど、クリスを主人公にしてしまうならば、そうしたものはすべて吹っ飛んでしまうだろう。結局、(先述したように)クリスとキョウマ2人の関係性が前景化してきてしまうからだ。
ゲームであるということを捨てた時、『Steins;Gate』の命もまた失われてしまった。そんな気がする。
☆☆☆★(3.5)