寒い廊下のベンチに、しばらく座っていた。

外は暗い。

何もかもが嫌になり、病院から逃げ出したかった。


『藤井さん』

婦人科の木田先生だった。

『部屋に行ったら、いらっしゃらなかったので、探しちゃいました』


看護師から、理不尽に責められたこと。

ストーマの交換をなかなかさせてもらえなかったこと。

部屋にいたくなかったこと。

自分の気持ちをうまく話すのが苦手な私の話を、ちゃんと聞いてくれた。


『藤井さんは、何も悪くないですよ』

その言葉に救われた。


しばらく他愛もない話をした。

そして、だんだんと心が穏やかになっていった。

私なんて死んだ方がましだ、と昂っていた気持ちが落ち着いた。


衝動的な判断で、誰かに迷惑をかけたり、責任を感じさせてはいけない。

先生のおかげで冷静になった。


『寒いでしょ?

そろそろ部屋に戻りましょう』

エレベーターの前で別れた。

部屋へ戻ったのは21時頃だった。


部屋に戻りシャワーを浴びる準備をしていたら、看護師が来た。


『しばらくいらっしゃらなかったので、検温ができていません。

今、いいですか?』

注意するわけでもなく、心配するわけでもなく。

ただ淡々とルーティーンワークを済ませて、去っていった。


数時間不在にしていても、我関せずの看護師と、探しに来てくれる先生。

すごい差だ。


夜中に1日の出来事を思い出した。

先生に愚痴って大丈夫だったかな。

でも先生なら大丈夫。


見つけてくれて、うれしかった。

すごく感謝している。

辛いことばかりではない。