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平面いぬ。






著者: 乙一

タイトル: 平面いぬ。



 短編から構成された本で、「石ノ目」「はじめ」「BLUE」「平面いぬ。」の4編です。どれも味わい深いのですが、とくに響いたのは「はじめ」でした。



 小学生の男子二人が創りだした架空の少女、はじめ。はじめは彼らの目にだけ映るように姿を現し、友情を育みながら中学、高校と進んでいきます。最後にドラマティックな事件が起こりつつも静かに物語は終わっていきます。

 設定なんかお構い無しに淡々と進んでいくんですね、これが響くんです。読みながら想像が膨らんでいくので、顔がいつしかニンマリしています。気持ち悪いです。 えと、とにかく読み終わったときに、途端にすべてが懐かしく込み上げてくるんです、久しぶりにしびれた短編でした。

 「はじめ」は原作が付くと週間で凄まじい作画を見せる漫画家、小畑健が前後編で漫画化しています。残念ながら映像化してくれた感動はあまり無く、見どころは、はじめの可愛さだけでしたねえ。…ええ、萌えましたが。



 「石ノ目」はジンとなり、「BLUE」はうるっと、「平面いぬ。」はうるるっと、なりました。侮れねえ、侮れねえよ、乙一っ。

推定少女



著者: 桜庭 一樹
タイトル: 推定少女

 思いっきり端折ると、家出少女が対決したつもりだったのは、汚い大人だった、ということになるんですが、とにかく気になるのは、大人は汚いという一貫した描写でした。

 読後にまず感じたのは、思春期、反抗期にある「汚い大人になりたくない」みたいな甘さに対するアンチテーゼとして一冊書き上げたのだと。これを読んだ思春期の人は主人公の女の子にかなり反発することを予想して書いているんだろうと。
 けれど、あとがきを読む限り、作者の桜庭一樹は、マジみたいですね。真面目に大人を倒そうとした話だったのだとしたら、余りにぬるま湯すぎます。このテーマに正面から挑んでいるのが面白いだけに、残念でした。

 僕がねじれ過ぎたのかどうか、ローティーンのときに読めば感化されていたのか、試金石にはなるのかなあ。感想を書くほどには…と思っていたのですが、成長ってなんなのだ、という確認も込めて。

吉原御免状



著者: 隆 慶一郎
タイトル: 吉原御免状

 もし、宮本武蔵に剣を教えた弟子がいたら。それが本著の主人公、松永誠一郎です。そんな剣の天才、誠一郎が肥後の山奥から江戸の色町、吉原に出てきて、幕府と柳生の策謀に飲み込まれながら傷つき成長していく時代小説です。ただ、この小説には誰一人として捨て置くことの出来ない魅力的な登場人物、そして色々な歴史的諸説を盛り込むことによって、ページを綴る手を止めさせない力があります。

 家康は関ヶ原で死んだ、その家康の腹心「南光坊天海」の正体、吉原誕生の秘密、等々非常に知的好奇心を刺激する話がこの小説には盛り込まれています。その他にも、世俗と縁を切って生きる人々の世界などの網野善彦氏の史観に基づく魅惑的な背景が広がっています。
 けれど、この小説にとってそれらはあくまで飾りに過ぎず、その中を誠一郎が剣によって魅せる血湧き肉躍る活躍が最高にカッコイイ。純粋に誠一郎の物語なのですね。

 隆慶一郎はこの作品でデビュー後わずか5年の執筆活動を経てこの世を去りました。未完のものが多く、この作品も続編の「かくれさと苦界行」で終わっていますが、構想だとその後も続くようでした。
 僕が一番好きな作家でありますが、その中でもこの「吉原御免状」には彼の時代に対する思い、考えが一番凝縮されているように思えます。
 
 小説とはどういうものなのか、僕の基準はこの一冊によって今でも決まっています。

天帝妖狐






著者: 乙一

タイトル: 天帝妖狐



 顔を包帯で隠す青年、夜木。彼は行き倒れていたところを杏子という少女に助けられる。周りにとけ込めることが出来ずにいた杏子は、夜木を介抱していくうちに、彼とだけは心を打ち解けられるようになっていく。夜木もまた秘密を抱えながらも杏子の優しさに触れ、徐々に心が満たされていくのを実感していた。だが、彼の抱える秘密がそんな二人を引き裂こうとしていた…。



 この本には2編入っているんですが、表題作「天帝妖狐」はこんな二人の視点から章ごとに語られていきます。杏子のパートは、普通に杏子の一人称視点で語られていくのに対し、夜木のは手紙の形式を取っています。これは夜木の異常な秘密を語るための措置なんでしょうね。夜木の地の文で語らせることによって奇異さを際だたせる狙いなのだと思いました。

 そういった技巧はとても上手く惹き付けられるのですが、どうにも読後感の余韻に乏しい。絶対的な力を前にした無情さがテーマなんですが、それを引き立たせるための杏子の行動、心情が弱いので、テーマが浮いてしまっています。もっと二人の愛情を強めても良かったのかなあと。決して詰まらなくはないんですが、実験作的なものを感じました。



 代わって、併録の「A MASKED BALL」は、いかにも乙一らしい凝ったシチュエーションから始まるミステリー仕立ての一編です。高校のトイレのラクガキで交わされていく会話。それは顔を知らない数人で行われていくのですが、そのうちの一人が暴走を始めていってしまう。やがてその暴走は主人公の周りにも被害が及びだして。

 これはまさにネットのBBS。書き込みに犯行予告をし、本当に実行してしまう。そんなここ数年の実際に起こった事件を、高校という空間に限定して再現してみせた話ですね。乙一の感性が炸裂しています。

 ちなみに主人公の同級生に宮下昌子という女の子が登場しますが、彼女がとても魅力的です。こういう飄々とした女の子の台詞が、乙一は非常に上手いですね。ええ、萌えましたよ(笑)。

暗いところで待ち合わせ






著者: 乙一

タイトル: 暗いところで待ち合わせ





 盲目の少女は一人暮らし。ずっと慎ましく暮らしていた彼女だが、ある日家の中に誰かが居るのを感じとる。暗闇の中に誰かが居る…!



 なーんて書くとバリバリのホラーに思えますが、これは純然たる青春小説でした。それも極上の。 もしこの小説を盲目の彼女の視点が書き続けていればホラーになりうるかも知れません。けれど作者の乙一は、その女性と侵入者の男性、ふたりの視線を交互に入れていくことによってコミカルにこの奇妙な共同生活を描き出します。



 途中、ミステリーの様相を入れながら進んでいくんですがこの小説の根幹は、間違いなく少年少女(と、云っていいと思う)の心の接触と成長です。

 答えを見つけ出すと云うことがどういう事なのか、それをこのふたりは優しく読者に教えてくれます。



 是非読んで欲しい一冊です。