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ボーダーライン





真保 裕一
ボーダーライン

 ロサンゼルスの日系企業で探偵として働く、永岡修、通称サム。彼はある日本人青年の捜索という依頼を請け負う。
 メキシコ国境沿いの小さな町にいることを突き止めたサムだが、彼はまだ知らなかった。その青年、安田信吾は生まれながらの悪魔だということに…。

 幸福を感謝し神に祈る者、我が身の不幸に神を恨む者、そして生まれながらの悪魔。テーマは非常に明確で、人と人ならざるものとのボーダーラインはどこにあるかということです。
 人には変えられない性質があるのか。そして決意によって人はその性質を超えることが出来るのか。クライマックスにおいてこの作品なりの答えが示されるのですが、それを知ってなお人という生き物に対して悲しみが深くなるばかりなのです。。

 真保裕一は非常にけれん味のある文章で、正統派の一人称ハードボイルドを描いていきます。
 真保裕一がハードボイルドを書こうとしたときに、ぶっちゃけ原寮の沢崎シリーズのようなものにはとても日本を舞台ではリアリティを感じられずに、異国であるアメリカを舞台にしなければいけなかったのだろうと感じます。
 アメリカを舞台にすることによって、事件がぼやけてしまったり、主人公の苦悩がいまいち伝わりにくいなどの弊害があるのですが、それでもリアリティを守るためにはせざるをえなかったのです。それが真保裕一の作品に対するボーダーラインであったのだと思うのです。

「かみちゅ!」と「それでも町は廻っている」






鳴子 ハナハル, ベサメムーチョ
かみちゅ!(1)



石黒 正数
それでも町は廻っている 1 (1)

 まず「かみちゅ!」ですが、これはとても幸せな出会いと云えそうで、「かみちゅ!」からしたらこのクオリティで再体験させてくれるのですから、文句なしでしょう。
 鳴子ハナハルにとっても、成年コミックの制限を離れて連載をしていくというのは、大変良いタイミングであったと思いますねえ。私は作者の大ファンですので、全ページ、全コマが愛おしく、画集に近いんですが。。
 内容はですね、悪意で出来た善意を握りしめて、血涙流しながら過去に向かって前進していく、って感じでしょうか。

 「それでも町は廻っている」は、下町のメイド喫茶は舞台に、ヒロインの女子高生を中心にのほほんと日常が描かれていきます。
 ちょっとずつ会話を削りつつ外しつつ、の脱力系のギャグが基本なのですが、ストーリーも絵も常に80パーセントぐらいで流していくんですね。まあ、それでこのレベルなのですから、そら恐ろしいですが。。
 仕組みとしては、古き良き、という幻想の中に現代の人間を放り込んで安心感を作り出しています。のほほんモノには定番ですが、ちょっとした古さを感じさせるのがとても上手いです。

 この2冊は同じ発売日だったということもあって続けて読んだのですが、読後の感覚がまったく同じだったんですよね。喪失感の心地よさが同じなのです。
 最近はマンガの構造研究や総論がいろいろ出ているのですが、私は文学も含めてそういうのが無意気でくだらないとずっと感じていまして。まあ、それは置いておいても、この2作というのは、特に最近のマンガの流れを精算したがっている作品だと思うのですね。
 作者という発信側が精算していくというのは、とても面白そう。文学では、作者の個人的な言葉として処理していくというのはよく見るのですが、作品そのものが精算していくということがどんな結末を迎えるのか、ハラハラしながら見守っていきたいです。経済に軽く潰されてしまうという可能性も大ですが…。

学園革命伝ミツルギ (1)





河田 雄志, 行徒
学園革命伝ミツルギ (01)

 ヘトヘトに疲れていて、加えて寝不足だったりしますと、ギャグマンガが通常の3倍の破壊力を持ちますね。たいへん笑かせてもらいました。

 制服の話や中二階堂のBTD計画も面白いのですが、一番の笑いどころは、妻先ドリルという電波キャラを出したは良いけれど作者がその後の扱いに困ってしまい、しょうもないオチ担当になってしまったことでしょうか。不憫すぎて笑った…。

 まんが王倶楽部に詳しいページがありますので興味を持たれた方はどうぞ。→ここをクリック(試し読みもできます。)

 なにはともあれ、出るかどうか分からない2巻を待つしかっ。
 

惑星のさみだれ (1)




水上 悟志
惑星のさみだれ 1 (1)

 大学生の青年、雨宮夕日は、ある日トカゲと強引に契約を結ばれ、その力で地球を守れと云われる。
 そして突如現れた怪物。夕日が殺される直前に救ってくれたのは、お隣に住む少女、朝日奈さみだれ。彼女は地球を救う姫だという。
 こうして、夕日とさみだれの、日常と非日常の物語が始まった…。

 友情やトラウマ、葛藤などを同時進行的に、全力で描ききっていくところがとても良いのです。
 キャラクタも全員どこか狂っていて、狂いながら一般性を演じているのが面白いんですね。そんな中で、夕日のトラウマがトカゲとの友情を絡めて描かれるシーンは、狂気の見事な解消を見てグッときます。
 
 王道を全力で描こうとしていまして、これは名作の予感がヒシヒシとしますよ。さみだれのパンツシーンとともに、要注目です。
 

氷菓





米澤 穂信
氷菓

 省エネがモットーの高校一年生、折木奉太郎。彼は姉からの命令で部員ゼロの古典部に入ることに。
 その古典部に一緒に入ってきたのが、同級生のお嬢様、千反田える。省エネで過ごしていきたい奉太郎の世界はずっと安泰のはず、だったのだが日常のミステリに対して全力で向かう千反田は奉太郎をこの台詞とともにその世界を変えていってしまう。
「わたし、気になります」

 最初は日常のちょっとした謎解きから始まり、最後は高校の忘れ去られた暗部にまで進みます。終始一貫して、基本はミステリなのですね。

 例えば、脂っこいコロッケを食べただとか、電信柱が汚れていた、という描写によってキャラクタたちを私たちの地表まで降ろしてくれるのですが、それを省いた現実感の無さが、高校生活でミステリという場合にはとても良い具合なんですね。
 あくまでミステリを本線に、そして青春を味付けで使うことでかえって印象が強まり、ほろ苦くて甘酸っぱい余韻を読後に残してくれます。

 高校生活を舞台にして題名が「氷菓」というのが大変素晴らしいです。奉太郎のクールさや青春の甘さを存分に表現していますよね。そして、謎が解けたときには「ひょうか、ひょうか」と…。