野の花(3) | 読書セラピー(幸せのページ)

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木に吹いた風が緑色になるように
花に吹いた風が芳香を運ぶように
風に言葉を託して届けます。

※野の花(1)から始まります。

心の深いところで、
はるさんを案じていた芹沢さん。

思わず
「覚えています。
あれから、どうやって暮らしましたか」
と尋ねました。

彼女の話はー

「私も先生のように、
中学に進学したかった。
でも、貧乏で・・・。

女学校に行けなくても、
勉強はできるだろうと
自分を慰めました。

書物や新聞を読めば
勉強になるだろうと考えましたが、
家では新聞をとっていませんし、
書物なんか、あの頃、
自由に手に入りません。

古新聞をもらったりして、
むざぼり読んだものです。

それと、この地方の娘が誰でもするように
私も和裁を習いに通い、
村一番うまい娘になりたいと心がけました。

お師匠さんにも可愛がられ、上達も早く、
他人のものを頼まれて縫うようになると、
そのお金で新聞を
とれるようになったのです。

そのうち、和裁なら一通りのものができて、
家にお針っ子が集まるようになりました。

その頃、縁談もありましたが、
いつも私は
『結婚したら、新聞を読ませてくれますか』
と条件を出しました。

田舎のことですし、
新聞を読むお嫁さんなんて
相手にしてくれません。

その条件で、どの縁談も断られました。

でも、新聞も読めないような生活なら、
結婚しても幸せになれないと考えて、
苦にしませんでした。

お針っ子相手に一生を過ごしてもいいと、
安心していたのです」

・・・・・・・

はるさんは淡々とお話していますが、
実にスゴイことではないでしょうか。

なぜなら、はるさんは1896年生まれで、
この時代は今よりずっと自由が少なく、
結婚するのが当たり前、
しかも早く結婚しなければ、
世間から厳しい目を向けられたからです。

究極の自分軸を持つはるさん、
その後、どうなったでしょうか。

出典:『心の窓』(芹沢光治良、新潮社、pp12.-14)

つづく


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