「おはようございます」
わたしは、いつものマッチョポーズをとって、フライトスクールの受付にいたマツさんに挨拶をした。
すると、マツさんも、
「おはようございます」
とマッチョ返しのポーズをとる。
こんな風にフライトスクールの1日は、いつも始まった。
マツさんは、私よりずっと前に飛行機のパイロットになり、この頃はスクールで機体整備の仕事をしていた日本人だ。スクールは、日本人と外人(本当は、日本人が外人なんだけど・・・)が、半分半分ぐらいの比率だった。
マツさんとは、飛行機の調子を聞いたり、グランド(座学)の勉強を手伝ってもらったりしているうちに仲良くなった。
毎朝のように、この変な儀式(マッチョ グリーティング)をするようになった頃、わたしは完全にカリフォルニアという異国の土地でリラックスできるようになっていた。
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フライトスクールの授業には、車の運転免許教習のように、実地と学科に分かれている。
車でいう実地に相当する訓練が、フライト(飛行訓練)、学科に相当する訓練がグランド(座学)と呼ばれる。
フライトは、1時間半ぐらいの飛行時間の間に、テイクオフ(離陸)やランディング(着陸)、プロシージャー(様々な状況下での操作手順)などを行う。車のように道の脇に停車する事は不可能なので、教習中の講義もすべて空の上で行う。
グランドは、機体の仕組み、法律、気象、プランの立て方、飛行の原理などを体系的に教官から学ぶ。
授業は、自分のペースで進められるため、授業の予約も自由だが、
わたしは、できるだけ早くライセンスを取得できるように、
1日にフライトが2回、グランドが2回というペースで授業をこなして行った。
天候が悪い日以外は、フライトできないことはほとんどなかったが、
自分のお気にいりの機体(セスナ機)で訓練するため、
朝、スクールに着くとすぐに受付で機体の予約をしていた。
小さなスクールではあったが、割といろんな機体の種類があった。
わたしが、訓練を行ったのはC-152という二人乗りようのセスナ機だった。
日本でよく飛んでいるセスナはC-172というこれより少し大きな機体だ。
C-152は、自分が風と一体化できるような感覚があり、F-1のコックピットに乗っているようなプライベート感が満喫できるため、飛んでいてとっても気持ちが良い。
すぐ足下に山や雲、ハイウェイやビルの屋上などが見えるので、高所恐怖症のわたしは、はじめは少し恐怖心があったが、セスナを自分で思うように操れるようになると、楽しくてしょうがなくなった。
飛行機なら大丈夫なんだけど、なぜかビルの屋上から見下ろす景色には、今でもまだ足がブルブル震える。
高所恐怖症でも、飛行機が安全な乗り物だと分かった時点で、飛ぶこと自体が、全く怖くなくなってしまうようだ。
アメリカに着いてから3か月余り、わたしは毎日空を舞い続けた。
...つづく